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大人の資格を持つために

2019年06月11日 | 読書
 冠婚葬祭とは「元服」「結婚」「葬式」「祭祀」を表わす。今は一般に慶弔の儀式事という意味だ。ここ三十年ぐらいで圧倒的に変わったのは、婚が減って葬が増えたということだ。だから結構な数の「葬」に列席するのだが、今もって慣れない点も多い。しかし、この頃改めて形式より心だとつくづく思うようになった。


2019読了57
 『冠婚葬祭心得』(谷沢永一 新潮文庫)



 一般によく出回っている指南書の類とは異なる。「心得」と記された訳はまえがきに記されている。「作法という形式に含まれている人間の気持ちとはどういうものか、それがこの本の主題です」。端的にいえば、いかにすれば気持ちが伝わるか、伝え方による人の受け止め方の考察となろうか。エッセー風で読みやすい。


 章立ても「葬儀」「婚儀」「人生の節目」の他に「交際」「贈答」「会合」と続く。二十年前以上の本なので、若干時流に即さない面も感じるが、本質はそう変わらない。例えば葬儀を取り仕切る側の心得として、ずばりこう言い切っている。「葬儀の哲学、それは、万事控え目である」。そこには現実を冷徹に見る目がある。


 巻末に「オトナのエッセー」と題された解説を作家田辺聖子(合掌)が書いている。取り上げられた箇所が、自分が心に残った部分とおおかた似ていることにびっくりした。例えば僧侶のさずける「戒名」についての批判。例えば銀婚式の夫婦を「離婚しなかったという業績」と褒め称えるユーモア。確かにネタ本でもある。


 「若くして異例の成功を収め、世間に取り沙汰されるようになったときは、同窓会を欠席して顔を見せず、会の雰囲気を損なわぬ心得も必要であろう」という一節がある。そこまでの人物になれるかどうかは別にして、ここにある心配りは、人づきあいの肝と言える。冠婚葬祭には「オトナ」の資格が見え隠れする。