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桜と絵本と豆乳と

「未だわからない話」を読む愉しみ

2020年01月01日 | 読書
 【遠い町から来た話】ショーン・タン  岸本佐知子・訳

 絵本だが大人向け。15編の話が収められている。断片的なメモや落書き的なイラストのページもあったりする。「訳者あとがき」によると、「何気ないスケッチやいたずら書き」がもとになって生み出された作品集だ。原題は「Tales from Outer Suburbia」郊外の町、平凡でありながら非現実的な場所を指しているらしい。



 「日常と非日常、こちら側の世界とあちら側の世界~を一つに融け合わせたいという欲求から生まれた」と訳者は書く。その意図を知ってもなおかつ理解し難いと感じた話は多かった。難しい語彙があるわけでもないこれらのストーリーをそう思うことを、単に想像力不足と片付けるのは新年早々面白いことではない。


 また「要は、感じればいいんだよ」と居直りを決め込むのは、結局感受性の貧困さを露呈するだけだ。そこで「未だわからない話」であると仮定してみる。それだったら楽しいではないか。わかることはどこか役立つ事に結びつきやすく、実を言えば安っぽいのだ。冒頭の一篇『水牛』はまさにそう教えてくれるようだ。


 空地にいた水牛は相談事に対し常にある方向を指してくれたが、「単刀直入で手っ取り早い答えをほしがった」者たちは、そのうち水牛の所へ行かなくなり、水牛も姿を消していた。そして時が経ち、水牛の示した方角にはいつも驚きや安堵や喜びがあったことに気づくのだった。私達が心したいことがぼんやり見える。