和田浦海岸

家からは海は見えませんが、波が荒いときなどは、打ち寄せる波の音がきこえます。夏は潮風と蝉の声。

腐敗性物質。

2010-04-09 | 詩歌
田村隆一著「腐敗性物質」(講談社文芸文庫)のことを思い出したのは、
マイケル・ディルダ 高橋知子訳「本から引き出された本」(早川書房)を開いていたときだった。そこにW・H・オーデンの言葉が引用してあったのでした。

「不信、報われない愛、死別、歯痛、腐敗した食物、貧困、こういったものは、人がひとたび手記を書きはじめるや、なんら問題ではなくなる。」(p201)

ここにあるところの「腐敗した食物」という箇所。
そういえば、と「腐敗性物質」が思い浮かんだのでした。

W・H・オーデンには「染物屋の手」という評論集があり、内容はすっかりわすれましたが、印象だけは残っております(笑)。
このマイケル・ディルダの本の「はじめに」で、こんな箇所がありました。


「さまざまな書物を蒐集しながら思っていたのは、おこがましいかもしれないが、シリル・コナリーのThe Unquiet Graveやロバートソン・デイヴィスのA Voice from the Attic 、W・H・オーデンのA Certain Worldと同じ書架に並べてもらえる本を書きたいということだった。ともあれ私が目指したのは、古代ローマの詩人、ホラティウスの信条『愉快で有益』に倣って、熟読や拾い読みや再読、いずれにも応えられる本である。」(p13)


さてっと、田村隆一の詩をひとつ。

     水
  
  どんな死も中断にすぎない
  詩は「完成」の放棄だ

  神奈川県大山(おおやま)のふもとで
  水を飲んだら

  匂いがあって味があって
  音まできこえる

  詩は本質的に定型なのだ
  どんな人生にも頭韻と脚韻がある



この詩を思い出したのも、「本から引き出された本」のp156

  詩に完成はない、断念あるのみだ。 ―― ポール・ヴァレリー

という引用を見たせいです。


コメント
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