丸谷才一著「思考のレッスン」(文藝春秋)の
レッスン1に
「羨ましいなあ。司馬さんは実に条件に恵まれていた。
大坂には立派な図書館がいっぱいあったわけです。
ところが、鶴岡にはそもそも図書館がなかった(笑)。
僕の行った山形県立鶴岡中学校は、
僕の在学中、火事で丸焼けになったんです。
校舎は再建されましたが、本が全部焼けちゃったから、
図書館がない。
市立図書館というものが一応はありましたけれど、
本はまったく貧弱でね。しかも、
図書館の司書が、本を貸してくれない。
あるとき、徳永直の『太陽のない街』という本を
借りようとしたんですね。そうしたら、
女の司書が、『中学生には、これは貸すわけに行きません』
と言って貸さない。横暴な司書だったなあ。
あの頃は、そういう大人が多かったでしょう。
つまり、頭ごなしというか、官僚的というか、
教育的態度なんかまったくない。いや、彼女の場合は逆に
『こんな本を子供に読ませてはいけない』と、
教育的態度が旺盛すぎたのかな。
そんなことじゃあ、僕は諦めない。
別の日、男の司書がいるときに持ってったら、
こちらはすんなり貸してくれました。・・・・
とにかくそういうことがあって、
図書館がそもそも貧弱な上に、本を貸してくれない。
司馬さんとはたいへんな違いだ(笑)。」(p12~13)
レッスン1に
「羨ましいなあ。司馬さんは実に条件に恵まれていた。
大坂には立派な図書館がいっぱいあったわけです。
ところが、鶴岡にはそもそも図書館がなかった(笑)。
僕の行った山形県立鶴岡中学校は、
僕の在学中、火事で丸焼けになったんです。
校舎は再建されましたが、本が全部焼けちゃったから、
図書館がない。
市立図書館というものが一応はありましたけれど、
本はまったく貧弱でね。しかも、
図書館の司書が、本を貸してくれない。
あるとき、徳永直の『太陽のない街』という本を
借りようとしたんですね。そうしたら、
女の司書が、『中学生には、これは貸すわけに行きません』
と言って貸さない。横暴な司書だったなあ。
あの頃は、そういう大人が多かったでしょう。
つまり、頭ごなしというか、官僚的というか、
教育的態度なんかまったくない。いや、彼女の場合は逆に
『こんな本を子供に読ませてはいけない』と、
教育的態度が旺盛すぎたのかな。
そんなことじゃあ、僕は諦めない。
別の日、男の司書がいるときに持ってったら、
こちらはすんなり貸してくれました。・・・・
とにかくそういうことがあって、
図書館がそもそも貧弱な上に、本を貸してくれない。
司馬さんとはたいへんな違いだ(笑)。」(p12~13)