和田浦海岸

家からは海は見えませんが、波が荒いときなどは、打ち寄せる波の音がきこえます。夏は潮風と蝉の声。

震災と蝉の声。

2015-06-27 | 地震
小泉信三著「思うこと憶い出すこと」から
前回のブログで、鎌倉の大震災を引用しました。
そのつづき。

「・・・・・
庭の楓の木の下に蹲まっている妻の傍らに来て、
一緒にわが家を見る。家は揺れるというよりは、
波に漂うともいいたいように動いている。
この年二つになった女児は、ようやく歩けるように
なって、下駄を買うと、使に行く女中について、
外に出ていた。これだけは駄目か、と思っている
ところへ、平気な顔をして帰って来た。
これで家中顔が揃った。
すると、半鐘が鳴り出した。
電車通りの方向に幾条かの煙が見える。
風は八幡宮の方へ吹きつけていたが、
よしこちらが風下であっても、
何の手の下しようもなかったのである。
また、働こうという気にもならなかった。
この間にも、大地は殆んど絶間なく揺れた。
震動がやむと、合間合間に、山で蝉が鳴く。
ただこの蝉の声だけが、遠い昔の世と今とを
繋ぐもののように感じられた。
やがて夜になった。楓の木の下に、
戸板で屋根を葺き、蚊帳を釣って、
家中の者が入って寝た。
耳を地につけていると、
海の方から地鳴りがして来る。
それが近づくと、地は浮き上り気味に揺れる。
それが幾度となく繰り返されている中に、
天が明るくなって来た。この明け方に、
二三町離れた、小町園という旅館が焼けた。
風のない、星の多い空に、火の粉がまっ直ぐに
昇って行く。昨日は強風の中に火が起っても、
何とも感じなかったのに、今はこの、
延焼の恐れのない火事が恐ろしく、
いいつけて、井戸から水を汲ませたりした。

打ちひしがれた人々は、
意外に早く息を吹き返した。
次ぎの日には、もう仮りの住居を造る
金槌の音が、町の方々で聞え出した。
私の家でも、始めは余震の合間に、
女中が恐る恐る家の中へ入って、
必要品を取り出して来ては、
戸外の生活をつづけていたのであったが、
幾日かして馴染の大工が来て、
庭に杭を打ち込み、電信柱ほどの大丸太を
それにあてがって、傾いた軒の支柱にして
くれたので、一面の壁土を掃き出し、
畳や柱に雑巾がけをして、
一同屋根の下へ帰って行った。・・・」
(全集16・p238)

もう少し、引用したい箇所があります。
次のブログで(笑)。
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鎌倉の大震災。

2015-06-27 | 地震
新潮45・7月号の平山周吉氏の文中に、
小泉信三氏が登場されており、
いろいろ引用本がありました。その中から、
手に入りやすく、気になった、
小泉信三著「国を思う心」と
小泉信三著「ジョオジ五世伝と帝室論」の
二冊を古本で注文。


「国を思う心」の方は、
小泉信三全集16を注文することに、
この16巻には
「国を思う心」「思うこと憶い出すこと」
「私の履歴書」などが入っておりました。


熊谷書店(宮城県仙台市青葉区)
「小泉信三全集 16」
450円+送料350円=800円
函入り。

さっそく、全集16巻を
無造作にひらくと、あれ、
関東大震災の際の記述が出てくる。
ということで、そこを引用。

「鎌倉の家には、多くの執筆の記憶が残っている。
・・・鎌倉では・・寺の太鼓の音をきいた。
私の家の庭の前方に『日朝様』と呼ばれる日蓮宗の
寺の大屋根が聳えていた。日暮れに、その勤めの
大太鼓が鳴り出す。・・

この家で大正十二年の大震災に遭った。
この時のことを私は記録しているので、
詳しく書ける。その朝、妻は少し不快で二階の
一間に横たわり、私は隣りの部屋で机に向っていた。
・・震動が起った。我々はすぐ、ただ事でないと感じた。

地震嫌いの妻を、左腕に抱えて、階段を滑るようにして
降りた。両側の壁が落ちかかって来る。辛うじて
降り切って、僅か八畳の一間を横ぎって、
庭へ飛び出そうとするのに、足を取られて、進めない。
箪笥が両側から倒れかかる。妻はあきらめたか、
そこに蹲まろうとする。それを掴んで持ち上げて、
縁側まで引きずって来た。
『大丈夫、大丈夫』とどなると、
『子供、子供』と叫んで立ち止る。
私は妻を抱えて、庭へ放り出したが、
その時は覚えがない。
ただ一瞬、庭先の地面に、
妻が膝と手を突いた姿を見た。
すぐ引き返して、子供等のいた筈の
女中部屋へ飛び込んだ。子供はいず、
灰色の壁と、針仕事の引き散らしてあったのとが、
ハッキリ目に映った。次の瞬間、
跣足で井戸端へ飛び出していた。
すぐそばの玉蜀黍の畠に、六つになる子供は、
一番年上の女中に抱かれ泣き叫んでいた。
同時に、便所の臭いが鼻を衝いた。
地震で、汚物が流れ出したのである。・・
隣りの空地に新築中であった半成の家屋も、
庭の正面に見えた、関という、土地の旧家の
大きな屋根も、跡形もなくなって、
濛々と土烟りが昇っている。」
(p236~237)

あと半分くらいを、引用したいので、
この次のブログに続く(笑)。



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