和田浦海岸

家からは海は見えませんが、波が荒いときなどは、打ち寄せる波の音がきこえます。夏は潮風と蝉の声。

人間ばなれをした。

2018-05-16 | 詩歌
河合隼雄対談集「あなたが子どもだったころ」(楡出版)。
ここに、谷川俊太郎氏との対談がありまして、
それが印象深く、後々尾を引いてしまいます。

対談には、対談相手の名前の脇に、
副題のように、短いコメントがありました。
「谷川俊太郎」の脇には、
「人間ばなれをした孤独を知る人」。

う~ん。たとえば、こんな箇所でしょうか。

「うちは、父が直接ぼくに、泣くなとか、
男らしくとかって全然いわない家庭だったから、
そういうしめつけはなくて割と心おきなく
泣けたことは泣けたんだけど、
自分だって嫌なんですよね。
なんか情けなくてね。」(p66)

お母さんとの小さい頃のやりとりも
印象深いものでした。

「ぼくは独りっ子で、母親っ子なんだけども、
割と生意気な子だったんです。
小学校三年生ぐらいだったと思うけど、
ある日、母と病院へ行ったんです。
体が弱くってしょっちゅう病院へ行ってたんだけど、
そのとき、診察された後で、
母が先生に話を聞いている間に、
診察室の中を歩き回って、看護婦さんに、
この器具は何のために使うのかとか、
何かそういう質問をしたらしいんですね。
その帰りの電車の中だったと思うんだけど、
母親がもう烈火のごとくぼくに怒ったわけね。
つまり、生意気だっていうんですよ。
こまっしゃくれていて・・・」

このあとに、
実例が登場しておりました。


河合】 お母さんのその怒りもちょっと
わかる気がしますけどね(笑)。

谷川】 ええ。今になるとよくわかるんです。
この間も、ぼくが小学校一年生のときに父と
一緒に写っている読売新聞のコピーを持って
きてくれた人がいて、家庭訪問みたいな
記事なんだけど、もうギョッとしちゃった。

河合】 写真じゃなくて記事の内容ですか?

谷川】 そうなんです。・・・・
ぼくがね、母と記者が話しているときに
客間に出てって、そこにあった瀬戸物に対して、
『お母さま、これは元禄時代の焼き物でしょう』
っていうの(笑)。

河合】 ええっ(笑)。

谷川】 そうすると母はね、
『違うわよ。これは朝鮮の物よ』っていうの。
と、ぼくはね、
『朝鮮でも時代は元禄でしょう』(笑)。
もうこれは慄然としたね。
そういう下地があったから、
母はそこでもうドカンと怒ったんだと思いますね。

河合】 その元禄の会話も載っているんですか。

谷川】 載っているんですよ(笑)。
ぼく、自分の子がそうだったら、
やっぱり張り飛ばすかなんかすると思う(笑)。


この対談は以前にも
私は読んだことがあったらしく(笑)。
ちゃんと線がひいてあるのですが、
この箇所ではなかったのでした。
いろいろと考えさせられる対談で、
忘れなければ、また再読したくなります。


そいういえば、思い出した本があります。
児童図書の分類になるのでしょうか。
岩崎書店「美しい日本の詩歌」(1995年)。
その⑥は、谷川俊太郎詩集。
その解説は、北川幸比古氏でした。
102ページの短い本文を七部に詩をわけて
おりまして、その第六部について、
北川氏はこう書いておられます。

「第六部『ひとり』には、
ばるん舎、三輪暁子が出した、
『ぼくは ひとりで いるのが すき』
とはじまる編者愛蔵の絵本『ひとり』の全文を入れた。
学校でこういう本を使うようになるかもしれないと
本気で思う。私は大学の教室で毎年のように
この絵本を学生に読む。
こういう子が学校にいるのである。
しだいにふえて、多数派になるのだろう。」
コメント
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