梅棹忠夫による、今西錦司追悼文「ひとつの時代のおわり」。
これを、またひらく。
一読忘れられない箇所があり、
まず、そこを引用。
「・・大興安嶺やモンゴルの探検行でも、
キャンプ地に到着して、わかい隊員たちがテントの設営や
食事の準備にいそがしくたちはたらいているあいだ、
今西はおりたたみ椅子に腰かけて、くらくなるまで読書をした。
今西は予備役の工兵少尉であったから軍装の一式はそろえていた。
探検隊でもつねに軍用の将校行李をたずさえていたが、
そのなかにはいっているのは大部分が書物だった。
朝になって若者たちがテントの撤収をおこなっているあいだも
かれは読書をつづけた。冬のモンゴル行においてもそうであった。
零下20度の草原で西北季節風がびょうびょうとふきながれるなかで、
かれは泰然として読書をつづけていた。・・・」
この箇所が鮮やかだったから、
「座談 今西錦司の世界」(平凡社)の
「解説にかえて―――今西錦司の世界を語る」に
同じ場面が語られている箇所に出会え、うれしくなる。
忘れないうちに、引用しておくことに。
河合】・・・今西さんは野人で、野性味があって
という点ばかり強調されているでしょう。
梅棹】違う。本質的都会人で、大文化人で大教養人だ。
ここのところ見のがしたら、これはわからんですよ。
河合】今西さんが大変な読書家であったということですが、
宮地(伝三郎)さんが、ときどきぼくらに忠告したことを
思い出します。『いまの若い人は今西さんの外面しか見とらん。
非常に行動的で、何か直感的、衝動的で、そういう
だんびらを振り回しているのばっかり見ているけど、
あれくらい本読んでいる人はありません。
それを見習わんといかん』といって。
だから、知っている人は知っているわけですね。
梅棹】野人であり行動人でありというようなことは、
むしろポーズなんですよ。まあそのポーズもかなり成功したと思うけど、
たとえばこういうことがある。
今西さんと蒙古で一緒のときに、われわれはウマで行くわけで、
そのあとを荷物を積んだ輸送隊の牛車がついてくる。
その牛車から今西さんの行李を降ろしたら、
中にぎっしり本が詰まってる。
それでみんな若いもんがテント張って炊事の準備やらしてる間、
おっさん椅子にすわって本読んでるわけや。
その読んでいる本が、哲学の本とか、社会学の本とか、
そういうものばっかりなんです。大変な人ですよ。
森下】ただし、今西さんが読んでる本の中には、
ぼくと一緒に蒙古に行ったときはね、
砂丘の中でテント張って三日ばかりおったけど、
そのときもっぱら『風と共に去りぬ』を・・・(笑)。
梅棹】そういう人やねえ。そういうことの
知識をひけらかしたりは絶対せん人やけど、
大変なバックグラウンドがあるということは間違いない。
(p371)
はい。今週は、この鼎談をゆっくりと味わえる(笑)。
これを、またひらく。
一読忘れられない箇所があり、
まず、そこを引用。
「・・大興安嶺やモンゴルの探検行でも、
キャンプ地に到着して、わかい隊員たちがテントの設営や
食事の準備にいそがしくたちはたらいているあいだ、
今西はおりたたみ椅子に腰かけて、くらくなるまで読書をした。
今西は予備役の工兵少尉であったから軍装の一式はそろえていた。
探検隊でもつねに軍用の将校行李をたずさえていたが、
そのなかにはいっているのは大部分が書物だった。
朝になって若者たちがテントの撤収をおこなっているあいだも
かれは読書をつづけた。冬のモンゴル行においてもそうであった。
零下20度の草原で西北季節風がびょうびょうとふきながれるなかで、
かれは泰然として読書をつづけていた。・・・」
この箇所が鮮やかだったから、
「座談 今西錦司の世界」(平凡社)の
「解説にかえて―――今西錦司の世界を語る」に
同じ場面が語られている箇所に出会え、うれしくなる。
忘れないうちに、引用しておくことに。
河合】・・・今西さんは野人で、野性味があって
という点ばかり強調されているでしょう。
梅棹】違う。本質的都会人で、大文化人で大教養人だ。
ここのところ見のがしたら、これはわからんですよ。
河合】今西さんが大変な読書家であったということですが、
宮地(伝三郎)さんが、ときどきぼくらに忠告したことを
思い出します。『いまの若い人は今西さんの外面しか見とらん。
非常に行動的で、何か直感的、衝動的で、そういう
だんびらを振り回しているのばっかり見ているけど、
あれくらい本読んでいる人はありません。
それを見習わんといかん』といって。
だから、知っている人は知っているわけですね。
梅棹】野人であり行動人でありというようなことは、
むしろポーズなんですよ。まあそのポーズもかなり成功したと思うけど、
たとえばこういうことがある。
今西さんと蒙古で一緒のときに、われわれはウマで行くわけで、
そのあとを荷物を積んだ輸送隊の牛車がついてくる。
その牛車から今西さんの行李を降ろしたら、
中にぎっしり本が詰まってる。
それでみんな若いもんがテント張って炊事の準備やらしてる間、
おっさん椅子にすわって本読んでるわけや。
その読んでいる本が、哲学の本とか、社会学の本とか、
そういうものばっかりなんです。大変な人ですよ。
森下】ただし、今西さんが読んでる本の中には、
ぼくと一緒に蒙古に行ったときはね、
砂丘の中でテント張って三日ばかりおったけど、
そのときもっぱら『風と共に去りぬ』を・・・(笑)。
梅棹】そういう人やねえ。そういうことの
知識をひけらかしたりは絶対せん人やけど、
大変なバックグラウンドがあるということは間違いない。
(p371)
はい。今週は、この鼎談をゆっくりと味わえる(笑)。