「皇帝」のイム・ユンチャンの演奏を聴くのはこれが初めて。
ソツがない代わりに、やや個性に欠ける演奏と言う印象を受ける(まあ、若いから仕方ないか)。
予想どおり、第2楽章で眠りに落ちるお客さんが続出し、脱力により持っていたハンドバッグ(?)を床に落として会場じゅうに大きな音が響くというちょっとしたハプニングも発生。
眠っていた方たちは、第3楽章の冒頭で飛び起きるかと思いきや、結構そのまま眠り続ける方がいて驚く。
これだと、終演後の拍手で目覚めるパターンか?
ソリスト・アンコールはJ.S.バッハ(マイラ・ヘス編)「主よ、人の望みの喜びよ」だが、ここはやはりプレトニョフ編曲のチャイコフスキー作品「くるみ割り人形より『行進曲』」あたりを選曲する気遣いがあってもよかったかな、と思ってしまうのは私にまだサラリーマン気質が残っているからだろう。
さて、メインのチャイコフスキー「マンフレッド交響曲」だが、ストーリー性があり、交響曲と違って退屈しない。
雰囲気は、ワーグナーのオペラ音楽に近い。
やはり注目すべきは、プレトニョフの指揮である。
余り体を動かさない省力型で、「はい、第一ヴァイオリン」、「次はチェロ」、「ハープのお二人、どうぞ」という風に、奏者を指で指すのが大きな特徴である。
いわば「指さし奏法」である。
スコアは見ていない(持ち込んでいない)ので、これは完全に頭に入っていないと出来ない芸当である。
プレトニョフは、何も知らない人が見たら「猫背のやさしそうな初老の紳士」で、聴衆の中には「指揮者のおじちゃん」などと呼んでいる人もいた。
だが、ピアノの演奏テクニックも、指揮者や作曲家としての能力も、とんでもないレベルの人、つまり超人なのである。