今月の歌舞伎座では、十八世中村勘三郎(「勘九郎」の時代が長かったので、多くの人にとっては「勘九郎」の方が通りがよいだろう。)の追善を謳った公演が開催されている。
「猿若」というのは、初世勘三郎が1624年江戸中橋(現在の日本橋・京橋付近)に創設した「猿若座」(後の中村座)にちなんだものらしい。
結構遅くチケットを取ったのだが、第一部(昼の部)は8列目の中央付近という絶好の位置をゲット。
最初の演目が始まると、隣の席の二十台前半と思しき若い男性が、筋書きを片手に、オペラグラスで熱心に舞台の演技を観察しているのに気付く。
歌舞伎座のお客さんは、当然ながら高齢者が圧倒的に多く、若い人たちは愛好家や旅行客などのため団体で来ることが多いので、「若い人が単独で観劇」というのは目立つ。
「さては役者さんか?」と推測していたら、案の定、帰り際に松竹関係者(?)と挨拶を交わしていた。
調べると、どうやら中村T太郎さんのようだ。
役者さんも、「とちり席」でオペラグラス片手に演技の勉強をするのである。
さて、今月も予想どおり、初っ端からポトラッチのオンパレードである。
あまりに炸裂しまくるので、ポトラッチの数をカウントしてみようと思い立った。
「野崎村の久作には、養子の久松(ひさまつ)と、女房の連れ子のお光(おみつ)がいた。久作は気立ての優しいお光を、久松の嫁にしようとしていた。
一方、久松は奉公に出た大阪の油問屋の娘、お染(おそめ)と知り合い、恋に落ちる。それをねたまれ、久松が油問屋から帰されてきたので、久作は早速久松とお光の祝言を挙げようとする。」
ここまでは、よくある「三角関係」の話だが、この設定で注目すべきは、久松もお光も、当主である久作とは血のつながりがないということである。
この状況で、久作は、「イエ」の承継を、(血のつながらない)二人の子の結婚によって果たそうと考えているわけである。
それが正当化されるのは、「(DNAの断絶ではなく)「イエ」(屋号、苗字)の断絶を絶対に回避せよ」という「世間の掟」が存在するからである。
これに対し、三角関係の方はどう展開していくのだろうか?