パンセ(みたいなものを目指して)

好きなものはモーツァルト、ブルックナーとポール・マッカートニー、ヘッセ、サッカー。あとは面倒くさいことを考えること

誰も聞いていないと知りながら

2014年12月28日 22時04分53秒 | 徒然なるままに
のちのおもいひに

夢はいつもかへつて行つた 山の麓のさびしい村に
水引草に風が立ち
草ひばりのうたひやまない
しづまりかへつた午さがりの林道を

うららかに青い空には陽がてり 火山は眠つてゐた
──そして私は
見て来たものを 島々を 波を 岬を 日光月光を
だれもきいてゐないと知りながら 語りつづけた……

夢は そのさきには もうゆかない
なにもかも 忘れ果てようとおもひ
忘れつくしたことさへ 忘れてしまつたときには

夢は 真冬の追憶のうちに凍るであらう
そして それは戸をあけて 寂寥のなかに
星くづにてらされた道を過ぎ去るであらう

これは立原道造の美しいソネット

自分が初めて書き写す行為をした詩
しかし何故か正確に覚えられなかった
読んでいるとうっとりしてしまって
覚えるどころではなかった

最初の出だしが好きだったが、今は2番目の
──そして私は
見て来たものを 島々を 波を 岬を 日光月光を
だれもきいてゐないと知りながら 語りつづけた……

この部分が気になって仕方ない
ついつい今の自分に置き換えている

誰も聞いていないと知りながら語ることの辛さ ・寂しさ ・孤独

甘いだけではない寂寥感を感じさせるこのソネット
これを美しいと感じてしまうメンタリティーの人たちは
きっとたくさん傷ついたことだろう

確かに存在した何か美しいもの
それに対する郷愁
それは安易なポジティブな言葉の羅列よりも人の心に訴えかける

昔子供だった大人は
何か大切な事を忘れてしまってはいないか?

弱々しい中にも覚悟を感じられる大好きなソネット
ほんと美しい!

コメント
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