◆一応は検討すべき命題
防空壕、というとやたら大時代的な、前近代的な響きではあるが、公共シェルターや耐爆建築物という概念を、特に都市部、人口密集地域を中心に検討するべき時期なのかもしれない。
北朝鮮が再び、長距離ミサイル実験の準備を進めている旨、複数の報道機関により報じられている。五月末に、平壌近傍のミサイル工場から東倉里で建設中のミサイル施設に運搬されたという報道があり、舞水端里ミサイル試験場、南北国境近くの旗対嶺基地でもミサイルの試験準備が進められているとのこと。
自衛隊はミサイル実験により、ミサイルが日本列島を越える際、万一切り離したロケットが日本列島の人口密集地域に落下する事案を予防する目的で、首都圏、東北地方、京阪神地区へ、弾道ミサイルへの迎撃能力を有するペトリオットミサイルPAC-3を展開準備しているとも伝えられている。
弾道ミサイルを迎撃する自衛隊の手段は二つ。日本海などに展開したイージス艦より運用する比較的射程の長いSM-3、そして航空自衛隊が運用するペトリオットミサイルPAC-3だ。ペトリオットミサイルPAC-3は、もともと航空基地などを防護するための迎撃手段であり、迎撃高度にもよるが、半径十数キロ以内での迎撃が限界となっている。
大都市の人口密集地域だけを防護するとしても、中心部に展開する必要があり、新宿御苑や大阪城公園、名古屋城などに恒常的にミサイル部隊を展開する以外は、分屯基地からの迎撃は困難で、導入が検討されている射程が100km超のTHAAD配備が実現しなければ、即応性では問題がある。
現時点では、航空自衛隊のレーダーサイトなどが弾道ミサイルの接近さえ探知することが出来れば、全国瞬時警報システム、いわゆるJ-ALERTにより警報を発令することだけは出来る。J-ALERTは、主に緊急地震速報、津波警報、緊急火山情報、気象警報、震度速報の通知に用いられるが、必要に応じて指定河川洪水情報、弾道ミサイル警報、空襲警報、大規模テロ警報などの発令手段としても用いられることとなっている。
しかし、緊急地震速報であれば、落下物の無い場所への避難や減災措置を、緊急火山情報であれば火砕流危険地域からの避難と火山弾からの避難など、具体的な措置がとれるものの、現時点で、空襲警報や弾道ミサイル警報に対して、とることのできる具体的手段は必ずしも明確に示されている訳ではない。
こうした中で、ミサイル攻撃が行われたさいに、核シェルターのような頑丈で、長期間避難できるようなものではなくとも、ミサイルが直撃した際でも被害が局限化することの可能な施設の列挙、加えて、地下街や地下駐車場、地下鉄など爆風被害からだけでも回避することのできる施設などを指定し、万一の被害に備える必要があるのではないかと考える次第。
少なくとも、ミサイル攻撃を受けた場合、諸手をあげて対処方法無しという状況に陥ることが無くなるわけであるし、また核攻撃を受けた場合でも、避難場所が明確に示されていたならば、避難誘導などにより混乱を最小限に留めることができる。加えて、世論が外圧に左右される可能性も局限化することが出来る訳だ。
また、核攻撃なども想定し、こちらは避難のための施設だけではなく、気象情報などを有機的に包括化し、放射性降下物からの防護も視野に入れた被害局限化の訓練なども必要性は考えるべきだ。この種の訓練は、自衛隊ではマニュアル化されているようだが、自治体の国民保護法制に基づくマニュアルでは、必ずしも考慮されていないものが多いとされる。
もちろん、ミサイル攻撃や核攻撃を想定した耐爆建築物の指定や、公共シェルターとして転用できる建物の列挙には、一部市民団体から反発を招く可能性もあるのだが、弾道ミサイルに対して、その防衛能力の整備は過渡期にあり、急襲的に国土が攻撃された場合、加えて同時多数のミサイルにより飽和攻撃が行われた場合、現時点ではその迎撃は確実ではない。
もちろん、弾道ミサイル防衛に対応するイージス艦の増勢や、ペトリオットミサイルPAC-3の増強、将来的にはTHAADミサイルの整備や、より早い時期に探知するための航空機に搭載した赤外線センサーAIRBOSSの整備、早期警戒衛星の導入などの選択肢を経て、より確度の高い弾道ミサイル防衛能力を整備するという選択肢はある。
加えて、航空機や巡航ミサイルにより、弾道ミサイル攻撃が行われた際には、その策源地を攻撃する能力を整備し、抑止力として対応する選択肢もあるのだが、同時に、弾道ミサイルにより攻撃を受けた際には、避難するための避難所となる建物の選定なども、併せて行われるべきではないかと考える次第。
HARUNA
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