北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

防衛産業と武器輸出三原則② 防衛産業の根底を支える中小企業

2009-06-26 23:11:31 | 防衛・安全保障

◆輸出だけでは解決できない問題

 防衛大綱の改訂が年末に行われるとのことで、装備品定数の見直しから、策源地攻撃まで、加えて防衛費縮減に伴う防衛装備品調達減少のなかで、防衛産業を維持させる手法として、武器輸出三原則の運用を見直し、一部防衛装備品の輸出を検討するという提案が為されている。

Img_5285  そもそも日本の自衛隊装備に競争力があるのかと問われれば、三菱重工が開発中の新戦車の価格は概ね7億円とされ、ドイツ製レオパルド2A6の価格が、2007年の時点で発注をかけた場合20億を越えてしまうといわれ、韓国製最新鋭戦車K-2の価格は13億円程度であることを考えればかなり安価に収まっている。

Img_5305_2  なかなか宇宙に人工衛星を打ち上げられないテポドン一発300億円といわれるので、発射コスト100億円前後で、宇宙に4~6トンを送り出せるH-2Aの方が価格では競争力がある。この他にも詳細は後日掲載するが、ミサイルやレーダー等の装備品、また艦船の価格でも日本製の装備品は国際競争力を有しているといえる。

Img_6135  もっとも、防衛装備品はすべて安価かと問われれば一着50万円といわれる戦闘防弾チョッキや10万円といわれる鉄帽など、個々の面を精査すれば、量産効果が出ていない負い目か、高い装備もあるのだが、一方で安い装備も存在するという実情もあるのだ。海外の要求性能と合致していないのでは、とか、運用体系が根本から異なる、というような点から、輸出すれば防衛省からの発注では維持できない防衛産業の維持には寄与するのではないかという視点が出てくるのもうなづける。

Img_5164_1  他方で防衛産業維持の観点からの輸出という方策を採る場合、単に輸出ということだけでは対応できない点が出てくる。日本最大の防衛産業である三菱重工は、年間の総売上高3兆4000億円しかし、防衛装備品の占める割合は一割未満である。これは軍需産業としては、この比率は意外と低い。

Img_0591  世界最大の軍需産業として知られる、と同時にトヨタ自動車などと比べると企業規模は小さいのだが、ロッキードマーティンの防衛装備品(軍需品というべきか)への需要は全体の売り上げに対して92%が軍需。世界二位で旅客機と共に戦闘機も生産するボーイング社なども48%、イギリス最大手にして最後のイギリス製造業ともいわれるBAEシステムズ社で95%だ。

Img_7223  対して、日本最大の軍需三魚である三菱重工は前述のとおり10%、日本二位の川崎重工も年間総売上高1兆3000億円であるが、防衛装備品の占める割合は6%、主要防衛産業十位までの企業では、このほか2%台や、1%未満の企業が多く、一般に防衛産業として認知されている企業は、防衛装備品への依存度が極めて低いのが特色だ。

Img_0013  防衛装備品への時依存度が低い大企業であれば、これは過去に日産自動車のように撤退した事例もあるのだけれども、企業体力が相応に大きく、加えて事業の分野が多岐に及ぶことから、防衛装備品の調達数減少は、打撃ではあっても、企業の存続が危ぶまれる、持ちこたえられないほどのものではない。

Img_1351  他方で、町工場がそのまま戦車や航空機、電装品などの主要な、そして民生品では他に代替品が無いような装備品を生産している、いわば、防衛産業の下請け企業的な存在といえる会社の場合、企業規模の関係上、総売上高は大きくないものの、防衛装備品への時依存度は高い、という事例がある。

Img_3502  冷戦終結後、軍需産業の民需転換などが叫ばれ、幾つかの試みがなされたものの、既に寡占市場となっている産業に新規に異なる業種からの参入というのは容易なことではなく、結果的に民需転換を行うのではなく、合併と資本提携により企業体力を高めるという形で業界再編を乗り越え、今日に至っている。

Img_1052  日本の場合、独自外交を進めるため、そして外交上、武器輸出を行わないという選択肢を採り、国際競争からあえて防衛産業を遠ざけ、今日に至る。この中で、例えば国外の装備品の共同生産というかたちで、部品単位での輸出、これは既に汎用品の分野ではかなり広範に行われているようだが、汎用品以外で、防衛装備品に不可欠な特殊用途の備品を生産する中小企業を如何に維持するかが、本質的な問題となる。

Img_0811  中小企業については、下請けである以上、海外から部品を調達しての多国間国際分業により生産を行おうにも、基本的に日本の装備品は少数多年度調達が前提であり、継続的に部品の供給を受けられなければ、全体の生産計画にも響く。これは、長期的視野に立てば企業経営に大きな不確定要素を付け加えることになる。

Img_0801  つまり、安易に部品だけを海外からの供給に依存するということは、途中で供給が滞るかもしれないというリスクや、部品供給に起因する装備品の稼働率確保という観点からも、実は望ましくない結果につがなるものである。即ち、広大な面積を有する日本列島を領域とする国家の国民と社会生活を守る為には、現状の予算規模、人員規模、装備定数はぎりぎりの均衡点の上で成り立っていた訳である。稼働率を高く維持することで、少ない装備と人員を最大限の抑止力に結び付けてきた訳だ。

Img_4735  縁の下の力持ちというべきか、これら中小企業を対象とした場合、安易な業界再編というのは、ちょっと現実性が無いわけであるし、さりとて国有化するわけにもいかない。一方で、技術や生産基盤の集合体である企業がいったん失われてしまえば、その再建には大きな負担を税金から行う必要が出てくる。

Img_6844  武器輸出三原則に論点を向ける前に、国策としての防衛産業の基盤となる中小企業への補助、そして技術の喪失や流出を防止するための議論が重要なのではないか、という点。さらに、製造用工具などを企業の“自腹”、つまり社会的公益性に依拠した善意に依存してきたのであるが、これからはこうした工具や生産ライン整備費用などを、国が捻出するという構造が必要になるのではないだろうか。

HARUNA

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コメント (4)
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