北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

陸上防衛作戦部隊論(第十回):戦車生産基盤維持と国産乃至ライセンス生産装甲戦闘車生産

2015-06-13 18:12:32 | 防衛・安全保障
■戦車生産基盤維持
前回に続き装甲戦闘車の生産を主に戦車生産基盤維持という視点から見てみましょう。

戦車を有事の際に緊急生産する、という選択肢は、現代戦が短期により戦略目標を破壊し収束するという特性上現実的ではありません、しかしそれ以上に重要な視点は、有事が近づいた際に戦車生産基盤が国内に残っているのか、という点の方が重要で、戦車を生産可能な工場と企業の事業部が維持できるだけの受注が無ければならず、発注は無いが工場と事業部と技術者と行員を維持するよう、と求める事は出来ません。

三菱重工のほか、日立製作所なども必要ならば戦車の生産を支援し、建機などの生産ラインを応用するかたちでかなりの数の戦車を生産する想定は行われていたようで、もちろん治具の準備や鋳造砲塔に砲身などの生産、砲身を生産する日本製鋼は北海道の室蘭にありますが、戦車用の部品が間に合うかなどの疑問符はのこるものの、少なくとも戦時生産の概念はあったわけです。

さて、90式戦車の時代にはいり、30両程度の生産、1両、12両となり、10式戦車の時代には11両と月産1両さえ割り込んでいます、三菱重工の見積もりで年産50両とした場合の単価が7億円というわけですから、たとえば5億円の中距離多目的誘導弾を普通科中隊の対戦車小隊に配備するくらいならば、同じ費用で縮小規模の戦車小隊を各普通科中隊に割り振れる戦車部隊を整備した方が安上がりであるように感じるのですが、ね。

この生産数の縮小がもたらすもっとも大きな懸念は戦時生産や有事の際、とまでいかずとも緊張度が大きくなり戦車の増強画筆用となった際に生産基盤が喪失してしまうことにあります、もちろん戦車を輸出用に生産基盤を維持できる見通しがあるならば、また話は別なのですが現在のところこうした見通しはありません、潜水艦製造のように現役車両の寿命を短縮し生産数を維持する、という方策も採られていません。

戦車生産基盤の維持はかなり大きな問題であり、数年前には戦闘機生産基盤維持にかんする防衛産業各社間の協議などが行われましたが、月産1両を割り切る状況というものは完全に生産が終了する戦闘機ほどではないにしても、これ以上の戦車製造規模縮小は基盤、将来開発への影響を含め真剣に検討を必要とするほどの状況となってきています。

戦車は重厚な車体と防御力から一見錯誤しがちですが、戦車戦闘においては消耗品と考えねばなりません。戦車は消耗しても補充ができるとして乗員はどうするのか、という指摘があるでしょうが、戦車の装甲は乗員を防護することを第一として、車体が破損してでも乗員を防護する構造を採るものが多く、人員の損耗以上に車体の損耗があると考えねばなりません。

北大路機関:はるな
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)
(本ブログ引用時は記事は出典明示・写真は北大路機関ロゴタイプ維持を求め、その他は無断転載と見做す)
コメント (7)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする