北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

将来小型護衛艦の量的優位重視視点【9】 沿岸運用に特化する故の運用の多用途性

2016-07-21 22:11:35 | 先端軍事テクノロジー
■沿岸運用に特化する意義
 小型護衛艦、小型ですがミサイル等はその分陸上に置き沿岸部の運用へ特化する、という前回の視点について。

 地対艦ミサイル連隊と相互支援する将来小型護衛艦ですが、第二に防空ピケット任務が挙げられます。もちろん、将来小型護衛艦は高度なレーダーを搭載するものではない為、レーダーピケット艦として任務に対応する訳ではありません、しかし、データリンクにより連接している部分は大きい。

 更に将来小型護衛艦そのものは高度な個艦防空システムを搭載する前提ではない為、航空攻撃を受けた場合には即座に陸上に展開する防空網の支援下に退避しなければなりません、つまり陸上自衛隊の高射特科群が運用する03式中距離地対空誘導弾や航空自衛隊のペトリオットミサイルとの連携がその任務として加わるでしょう。

 陸上自衛隊の高射特科群が運用する03式中距離地対空誘導弾や航空自衛隊のペトリオットミサイルとの連携、具体的には、潜水艦から発射される巡航ミサイルが、航空基地や燃料集積所に策源地や発電所など高付加価値目標を攻撃する場合に洋上での低空目標監視を行う手段が一つでも存在する事は非常に大きな意味があります。

 高射特科群と高射群との連携、というものを提示しました。またその上で、有事の際、場合によっては防空監視所、つまり航空自衛隊のレーダーサイト支援、という任務、レーダーサイト周辺に展開し潜水艦などからの巡航ミサイル攻撃を感知し、レーダーサイト防備に展開する基地防空地対空誘導弾等への情報連接を行うという運用も考えられます。

 一方で副次的に、将来小型護衛艦は小型であっても沿岸部を哨戒しており、特殊部隊浸透などへの小型潜水艦、所謂ミゼットサブによる浸透対処や、重要海峡への機雷敷設対処、日施掃海として重要海峡の定期掃海を行う重要港湾部航路防備の掃海艇を潜水艦攻撃から防護するなどの運用が考えられ、こちらは小型護衛艦として本来考えられる任務ではありますが。

 沿岸に限定して運用する艦艇、補完的に対艦ミサイルの不足は地対艦ミサイル連隊、艦対空ミサイルの不足は地対空ミサイルの、防空の傘に入る、掃海艇支援へ大型護衛艦を恒常的に随伴させることは有事の際の運用に大きな制約を付与するため、沿岸部の能力に限定した護衛艦を貼り付ける事は意義がおおきいでしょう。大型護衛艦は日本沿岸以外の場所でのシーレーン防衛や外洋任務に専従できる。

 水陸両用作戦支援、第三の任務に水陸両用作戦というものも将来小型護衛艦の任務には考えられます。地方隊警備隊に所属させるという前提ですが、地方隊の任務には海洋観測艦以外の手段による致死研究、沿岸部の調査などが加わります、言い換えれば離島沿岸部の水路などの観測任務も地方隊の任務となりますので、この任務も含む、ということ。

 警備隊に所属する将来小型護衛艦は、水陸両用作戦では、沿岸部へ展開する輸送艦の支援、場合によっては水陸両用強襲車両の強襲任務に際し大型護衛艦の艦砲射撃を補完するような小口径火砲による沿岸砲撃を、直掩射撃の形で展開する、というものも想定されますし、エアクッション揚陸艇LCAC等への支援、沿岸部からの攻撃などにより損傷した場合では、曳航しての離脱等も可能です。

 また、将来小型護衛艦は航空機格納庫について、その排水量と船体規模の限界から無人機以上のものを想定しませんが、飛行甲板は必要としています、この為、島嶼部防衛に展開する多用途ヘリコプターの緊急着艦等を受け入れ、また、洋上の給油拠点としても寄与できます。更に、フランス海軍の通報艦のような、十数名程度の特殊部隊や両用戦部隊収容能力を持たせるならば、初動の情報収集などに寄与するでしょう。

北大路機関:はるな くらま
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陸上防衛作戦部隊論(第五五回):航空機動旅団、機動力最大限発揮する普通科連隊の在り方

2016-07-20 21:51:43 | 防衛・安全保障
■航空機動旅団普通科連隊
 航空機動旅団普通科連隊、その編成は普通科中隊を戦闘基幹部隊とし、普通科中隊を増強普通科中隊、中隊戦闘隊として増加配備部隊を合わせ戦闘展開する方式を採ります。

 航空機動旅団と云いますと、第1空挺団の様に輸送機により全ての装備品を空輸する、という方式を思い浮かべられるかもしれませんが、この場合、ヘリコプターから降着後、ただの軽歩兵部隊となってしまいます、そして車両を空輸する空輸能力は膨大となります、しかし、空中機動に拘らず航空機動力を活かすというかたちで、第一線の近接戦闘部隊が上空から戦闘ヘリコプターによる火力支援を受けつつ、多用途ヘリコプターによる補給連絡線の維持、輸送ヘリコプターによる戦術機動を組み合わせ運用する方式ならば、非常に機動力を高める事が出来ます。

 普通科部隊はあらゆる機動力を応用し全ての地形を克服し、近接戦闘においては骨幹戦力となる部隊です。その為の編成として、普通科連隊の編成は本部管理中隊、4個普通科中隊、という編成を基本とします。これは現在の師団普通科連隊から重迫撃砲中隊を省いた編成で、重迫撃砲については本部管理中隊重迫撃砲小隊が装備するほか、普通科中隊の中隊本部へ重迫撃砲班を置き2門程度を分散運用する、という方式、これらの併用を行う事も可能でしょう。

 この重迫撃砲を第一線中隊の中隊本部へ直接配備するとの方式は意見特殊な手法に見えるものではありますが、陸上自衛隊では実際に、第4師団対馬警備隊、西部方面隊隷下の西部方面普通科連隊隷下の中隊などで実際に行われている方式です。一方現在の旅団普通科連隊と比較した場合、普通科中隊が旅団普通科連隊では3個中隊編成をとりますが、この案では4個普通科連隊を基本としていまして、編成規模としては若干大きくなっています。

 中隊は戦闘基幹部隊ではありますが、中隊単体での戦闘能力は限界があります。そこで中隊戦闘隊、若しくは中隊戦闘群という表現にて提示している編成案は、普通科中隊に増強普通科小隊を組み込む編成を構想するものです。普通科中隊は4個中隊を基幹とする、と明示しましたが、この内1個普通科中隊は軽装甲機動車を装備し、乗車戦闘を基本とし機動運用とする。

 地域制圧には下車戦闘が不可欠です、このため3個普通科中隊は四輪駆動軽装甲車としてこれまでに明示しました小型の小銃班用装甲車、若しくはその配備までの時間を要する場合には高機動車を小銃班用機動車両として運用します。必要に応じて山間部や地形踏破に装甲車両が最適とは言い難い状況では、下車戦闘により錯綜地形と山間部を、更には人員のみ戦術的な空中機動という選択肢も考えられうるかもしれません。

 四輪駆動軽装甲車という装備は、82式指揮通信車の四輪駆動型試案を念頭として、3t半トラック、当時の73式大型トラック操縦資格を有する隊員は全員運転できる車両とし、装甲戦闘車のような乗車戦闘能力を念頭としないものを提案していましたが、これは操縦要員を最小限度と出来るため、小銃班の大半の人員を下車戦闘に応用できることとなります。こうすることで、戦略機動時の不期遭遇や陣地間の交通壕の代わりとして人員を防護しつつ機動が可能となるのです。

 軽装甲機動車ですが、この装備としての最大の特色は、小銃班を複数車両に分散運用させる点であり、7名編成の小銃班であれば対戦車組と機関銃組を分散運用、当初10名編成の小銃班が運用されていた当時はその小型装甲車として軽装甲機動車が研究されていた時代には3両での分散運用が念頭とされていました、即ち、装甲車両は従来下車展開する事で小銃班を装甲車から火力基点を分散させ地域線量や突撃等に対応していましたが、軽装甲機動車は一個班を乗車させたまま三箇所へ分散する事を念頭としていた訳です。

 その上で小銃小隊を考える場合、小隊隷下を3個班として小隊本部を置く場合、小隊は3個班が各2両の軽装甲機動車を運用し小隊本部車両を合わせ7両から構成される事となります、7両が各分隊軽機関銃と軽対戦車誘導弾により乗車戦闘を展開する場合の能力は小隊とはいえ侮る事は出来ません。そこで、四輪駆動軽装甲車か高機動車により機動する普通科中隊へ、この軽装甲機動車小隊を増加配備する場合、戦術的な運用の幅が大きく広まる事となるでしょう。一個中隊が中隊戦闘隊や中隊戦闘群として同一行動をとる際に、装甲車両が二種類存在する事は後方支援の面で不利は生じるものではありますし、更に戦闘損耗や機動時の不具合頻度を考える場合について。

 これは指揮官裁量の立場から考えますと、単一車両よりも戦術の幅が増えるわけです。二種類の車両が存在する事は例えば複数車両が損傷する際にどの車種が損傷するかにより影響は変化するものではあります。この不具合を見込んだうえで、二種類を併用する提案の背景には、機動力を維持し、速度の有する戦術展開全般への好影響を勘案した上での視点で、装甲車両数では二個中隊に匹敵する車両数を有している、いわば縮小大隊としての能力を持つ一方、増強中隊規模の兵站所要での任務遂行が同時に可能、という利点がある。

北大路機関:はるな くらま
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航空防衛作戦部隊論(第三九回):航空防衛力、基地機能の地下化推進に関する幾つかの視点

2016-07-19 21:48:02 | 防衛・安全保障
■航空基地の機能強化
 戦闘機数には防衛大綱上の上限がありますが、基地機能は上限が無い、という視点を前回示しました。

 基地機能の維持、重要となるのは防爆施設を可能な限り建設すると共に可能ならば地下化工事を推進する事でしょう。地下工事、と一概にいますと非常に大きな施設という印象が大きくなりますが、航空自衛隊では那覇基地の南西方面航空混成団司令部庁舎がそのまま施設群全て地下化されています。

 那覇基地の地下施設化、その完工式の様子は朝雲新聞“航空自衛隊の五〇年”にも大きく紹介され話題となりました。府中基地の航空総隊司令部旧庁舎や横田基地の航空総隊司令部庁舎を始め地下化された施設が指揮中枢には意外と多く、レーダーサイトなども重要設備は地下化、雪中通路という名目での諸施設の地下化は為されています。

 また、弾薬関連の施設は地下に構築される事が多く、これは弾薬保管への保安性という視点や、弾薬保存への湿度管理や温度管理などの問題もあるのでしょうが、航空自衛隊最大の弾薬庫とされる高蔵寺弾薬庫は山ひとつ刳り貫いた広大な施設を有していますし、所謂トンネル式地下施設は意外に陸上自衛隊を含め数多く存在するとのこと。

 施設地下化の利点は、航空攻撃に際してどの部位に戦闘機が配置されているのか、どの部分を攻撃すれば誘爆等二次被害が高まるかを徹底して秘匿できる部分にあり、その上で勿論地下施設の深度にもよりますが通常爆弾程度ならば弱点部位に含まれる位置へ正確に命中しても被害が及ばないという点、がひとつ。

 そのうえで、航空攻撃を展開する側には地下化されている施設は目視での位置判別が困難となり、航空攻撃での被害極限にこの位置秘匿は非常に大きな成果を発揮出来るでしょう。他方、半地下化として基本的に弾薬区画等では為されている方策ですが、重要施設を堤防で囲み直撃以外の爆風被害から防護する措置も有効です。

 極言すれば、弾道ミサイルや爆弾落下による命中を逃れた破片による二次被害の防止には、一定厚を有する土嚢による応急掩体でも一定程度航空機は防護できるもので、例えば航空団施設隊等は冷戦時代に航空攻撃の蓋然性が高い時代、土嚢による応急掩体構築訓練を滑走路被爆時応急補修訓練に並び実施していたとの事です。

 他方、これでは応急的であることは確かですしクラスター弾による攻撃に対しての脆弱性は全く払しょくできていません。地下化について、可能な限り航空機格納庫について、地下化乃至掩体収容を行うと共に設備の中で特に指揮中枢の地下化は航空団だけではなく応急部署や補給部署を含め急務であ流転に代わりはありません。

 そのなかでも資材施設や補給施設といった戦闘支援施設についても可能な限り地下化や半地下化を行う事が望ましいでしょう。勿論、掘り下げて地下化工事を行う事は理想ですが、応急的に堅固なコンクリート施設を建設し、その上に盛り土を行う地下化、強化型掩体として航空機及び施設群を防備する施策でも対応可能です。

 また、基地防空群の高射機関砲等の諸施設を掩砲場事前配置により迅速に展開できる体制を構築し、更に基地内を地下通路、交通壕により連絡する態勢構築も基地能力強化の施策となるでしょう。これにより、攻撃を受けた場合での生存性を向上させ、貴重な航空戦力を本来の任務へ集中させることが可能となる。

 更に周辺地域の住民避難が完了するまでの間、基地防空隊の行動による付随被害の問題を受動的に対応し基地機能の維持を図る、という施策も可能となります。更に副次的な要素として、原子力事故や都市部への核攻撃事案からの基地機能維持、津波対策にも気密性の高い地下化施設は有用であることも忘れてはなりません。

北大路機関:はるな くらま
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バングラディシュテロ邦人被害、教育訓練支援という日本独自のテロ対策支援を検討すべきだ

2016-07-18 22:25:27 | 国際・政治
■法執行機関・自衛隊教育支援案
 バングラディシュ邦人襲撃事案、多くの犠牲者を出す悲惨な事態となりました。

 バングラディシュ邦人襲撃事件はレストランにて食事中の外国人を標的として襲撃したテロ事案で、バングラディシュ政府は空港や鉄道ターミナルや政府施設などへの警備強化を行うとともに高級ホテルや主要観光地など外国人が多く集まる地域へのテロ対策警備を行ってはいましたが、レストラン全てを警備することはできず、ソフトターゲットとして重要度はそれほどではないが、外国人を複数名襲撃するだけでもテロリストには世界へ自己存在誇示を行うことができるため、防ぐことができませんでした。

 さて、日本のテロ対策として実施すべき視点ですが、自衛隊には報復攻撃を行うことは国民感情、平和憲法はもちろん、これまでテロに対する不服での付随被害が次のテロの要因を醸成している実状を歴史から学んだことから、例えば航空攻撃による策源地攻撃などは支持されないでしょう。ただ、テロ対策を法執行機関によるテロ対策任務支援を行う、例えば教育訓練支援をおこなうことは可能であるはずです。

 これまで、海外の部隊との訓練は法的制約がありました。安全保障関連法制整備が実現するまでは日本国内の演習場へ自衛隊と米軍以外の部隊を招いて訓練することはできず、駐在武官などが視察を受け入れるだけに限られていました、実際、日米共同訓練は毎年国内の演習場において恒常的に実施されていますが、日本と包括安全保障協力協定を締結したオーストラリア軍は、日本国内の演習場において共同訓練を実施したことはありません。

 日本には特殊部隊が複数存在します。そこで、例えば警察のSAT,海上保安庁のSST、陸上自衛隊の特殊作戦群、海上自衛隊の特別警備隊、など特殊作戦能力を有する部隊による海外法執行機関への教育訓練支援を実施し、例えば邦人が海外において人質事件の被害者となった場合、ここで突入作戦を実施する各国の法執行機関にたいして、訓練を行うことはできるでしょう。 

 SSTなどは関西国際空港警備などを景気として創設された経緯はありますが、海上での鎮圧任務やプルトニウム輸送警備などで実績が高く、PSI拡散防止イニチアチヴ多国間訓練等では教官を務めています。SATも創設から長く経験は比較的積まれている段階にあります。特殊作戦群と特殊警備隊についてはあまりその実体は公開されていませんが、要員選抜の部隊に水中処分隊や空挺団など一応一定以上の水準の部隊から精鋭を募っていますし、教育支援を行う分野は十分あるでしょう。

 バングラディシュテロでは、法執行機関の突入までの時間が大きく、特に人質が寸秒の差で殺害されている、交渉を目的とした立てこもりではなく、人質の殺害のために密閉空間を必要とした事案であり、交渉のための時間稼ぎというものは現在報じられる範囲内ではなく、文字通り即座の対応が必要とされるものでした。この支援へ日本がどのような対応をとれるかについてですが、考えられるものについては以下の通り。

 日本の場合、法執行機関への必要な手段を講じるまでに時間を要する印象はありますが、海上保安庁SSTでは船舶暴動対処事案など一刻の猶予もない状況にさいして、即座の突入を敢行しています。一方、こうした教育支援はテロ対策にとどまらない防衛協力の道を開くこととなります、共同作戦の研究などは集団的自衛権行使につながるとして、厳しく自制してきましたが、作戦能力構築支援などは、例えば長期的に継続してきている防衛大学校への留学生受け入れの延長として考えられるでしょう。

 防衛協力へ教育訓練を含めますと、日本が実施できる分野は非常に広い分野での協力が可能となります。例えば東南アジア地域において急速に進む潜水艦部隊強化へ海上自衛隊の潜水艦教育体系を、すでに潜水艦救難装備体系や運用体系は東南アジアや中国海軍にたいしても含め自衛隊は訓練教育を実施しています、我が国友好国が独自の防衛力を運用面で強化することは、シーレーンの安全性が維持されるという意味ですので、結果的に日本本土の安全にもつながる分野です。

 また、航空自衛隊の飛行教導隊を強化し、多国間訓練を日本国内、例えば島嶼部が並ぶ小笠原諸島の硫黄島基地などを起点に実施する、場合によっては飛行教導隊の巡回訓練に、海外での教育訓練支援を含めるという選択肢も、考えられるかもしれません。日本は教育面で、防衛協力を進めるという平和的姿勢を示すことも一つの抑止力を構成するでしょう。

北大路機関:はるな くらま
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トルコ軍事クーデター未遂事件、その長期化の可能性と我が国安全保障基盤への影響

2016-07-17 22:37:56 | 国際・政治
■地域的均衡破綻の危機
 フランスニースでの無差別テロ事案、そしてトルコ軍事クーデター未遂事件と南スーダン首都騒乱邦人孤立事案、一週間、多くの出来事がありすぎました。

 邦人保護、と共に我が国防衛において最も重要な視点は日本本土の防衛、そして本土全域が戦闘地域と陥らないよう予防外交と外線作戦等周辺事態対処を通じ、日本本土の防衛を達成する必要があります、平和憲法は国家あっての基本法でありこれは国民保護を基盤とし初めて実現できるものです、が、トルコ軍事クーデター未遂事件は、本日、クーデター関与の疑いがある軍部や国家機関等への逮捕請求が6000名を越えたとの報道があり、中東地域の安全保障全般への影響が危惧される状況となっています。

 我が国へ最大の軍事的脅威を及ぼしているのはロシアです、中国の脅威は実行されるリスクが大きいものの軍事力全般ではロシア軍には及びません、そのロシアですが、シリア内戦介入を契機として中東地域への影響度合いを非常に高めており、今回のトルコ軍事クーデター未遂事件に対してロシアは無関係ですが、このトルコ軍事クーデター未遂事件によるトルコ国内での混乱が長期化するならば、例えば反クーデターへの国内統制強化等が人権問題に発展し、EU加盟交渉等により欧州との距離が拡大する場合、ロシアが接近する可能性が否定できないでしょう。

 現実問題として、トルコは欧州とアジア中東地域を結ぶ要衝にあります、そしてトルコの東西南北の国際関係は、北ではロシアがクリミア半島を併合しウクライナへ軍事介入、南はシリア国内でISILが軍事行動と過激派分子の浸透を繰り返すと共に少数民族クルド問題が継続中、西はNATO加盟国であるトルコと同じくNATO加盟国であるギリシャとの間でエーゲ海島嶼部領有権問題が続きます、東にはイランが存在しており近年のイランへのロシアの接近とイランロシアのISIL対処でのシリア支援は度々領空侵犯事案に繋がりトルコとの軍事緊張を生んでいます。

 一方、この地域へロシアが影響力を増大させた場合、中東地域へのロシアの影響度全般が変化し、サウジアラビアやイスラエルとトルコにより不安定ながらも均衡を形成している中東地域において均衡の変化、パワーバランスの転換が生じる可能性が否定できません。トルコはNATO加盟国であり、もちろん、ロシアが軍事侵攻を展開する可能性は低く、勿論即座にはあり得ないとの前提で仮にロシアがトルコへ軍事介入する事が現実となった場合、北大西洋条約五条に基づく集団的自衛権発動によりNATOが全面戦争を前提に介入することとなり、避けなければならない事ではあるのですが、ね。

 クーデターが発生したトルコ、エルドアン大統領はクーデターに参加した関係者及び支援者に対して、極めて厳しい施策を執る事を国民に対し示しています。ただ、今回のクーデター関係者に影響を与えたとするギュレン教団、イスラム主義の政治への反映を期した団体は、ギュレン師が現在アメリカに居住しており、そしてギュレン教団関係者は支持者を含めればトルコ人口の一割に達するものであるとされ、今後の処遇とどの範囲まで粛清の対象とするかにより、どうしても長期化の可能性を払拭する事が出来ません。

 相対的な視点です、欧州とトルコは、アメリカとトルコは、ギュレン師を引き渡すようトルコ政府がアメリカ政府へ意見を表明しているという実情、EU加盟問題に関してエルドアン大統領の強行的姿勢が人権上問題があるとしてEU加盟交渉を難航させているという現状に積み重ねてのクーデター事件を受けての更なる強権化政策の示唆を既にエルドアン大統領が行っている実情、EU加盟交渉は更に長期化するでしょうから、相対的に現状以上にトルコとEU,トルコとアメリカの距離は近くなる可能性は現時点d根ありません、が、ロシアとの関係は、ロシア領空侵犯機撃墜事件が漸く和解へ向かっている現状、相対的に良好化する可能性は、ある。

 この意味するところですが、第一にロシアが我が国石油資源供給の最大地域である中東において影響を及ぼすこと、第二にロシアの対欧米政策がそこ政策を通じ悪化した場合に我が国とロシアが国境を接しているという実情がある、第三にロシアが資源外交を強化する事で国力を増大させ極東地域での影響力増大へ転換する、ということ。第一の問題ですが、ロシアは過去東欧地域に対して天然ガスパイプラインを敷設した上でロシアとの関係悪化の際に即座に天然ガス供給を政治的に停止させる資源外交を実施してきましたので、中東地域での影響力増大はこの資源供給を武器とした対外政策を地球規模で展開する可能性が生じるでしょう。

 国際情勢は一夜にして激変する、これは1979年のアフガニスタン侵攻により学んだはずでしたが2014年のロシア軍クリミア併合はまだまだ認識の甘さを突き付けられましたが第二の視点、極東地域においても2007年にアメリカが東欧地域において実施したミサイル防衛システム配備決定による米ロ関係悪化と準加盟状態にあったロシアとNATOの離反に代表されるような状況が、弾道ミサイル脅威に対し打撃力を選択肢として持たない日本のミサイル防衛に対してむられる可能性がある、ということ。

 そして、ロシアの影響力増大ですが、極東地域での緊張に繋がる、という部分です。これは第二の視点と重なるところですが、中ロ関係というより広い視野を含む必要があります、これは二つの意味があり一つに中国が南シナ海地域か東シナ海地域において軍事行動を行う際にロシアが積極的ではないにしろ牽制の役割を果たす可能性がある、ということ。冷戦時代には中ソ対立という国際政治の趨勢がありましたが、この部分が今日、変化しました。

 若しくはもう一つ、ロシアと中国ですが一旦中国が引いた状態ですが中国は蒙古地域と沿海州地域の歴史的領有権を、歴史的領有権とは中国語であり和訳すれば一度でも自国領となったと解釈する地域や一定以上の友好国領土は自国領域と見做すものですが、この中国とロシアが軍事的衝突の危惧が生じる、ということ、冷戦時代にソ連軍は中ソ国境に45個師団を配置していましたし、中国は1969年にダマンスキー島事件でソ連へ実際に侵攻しています。こうした過去の緊張が中東地域での変化を引き金として再燃する事も、否定できない。

 また、国際情勢は一夜にして激変する、とのリスクです。状況は場合によってはロシアの影響度を高めるものである、そもそも百年前の第一次世界大戦の根底にもトルコとロシアの緊張関係が一部存在するものですので、今後の情勢、トルコの施策が長期的に世界へどのような影響を及ぼすのか、観てゆく必要はあると考えます。そして日本は、ロシアの隣国故に影響を受ける地域ですが短期的には影響はありません、ここでトルコ問題を長期的視野から危機回避の予防外交として関与し、危機の克服に努める視点も、必要なのかもしれませんね。

北大路機関:はるな くらま
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トルコ軍事クーデター勃発!政府軍がアンカラ・イスタンブール市街戦の末に鎮圧

2016-07-16 23:27:33 | 国際・政治
■トルコ7.15事変,12時間の攻防
7月15日夜、トルコにおいて軍事クーデターが発生、その後12時間の攻防戦の末、鎮圧部隊により制圧されましたが、世界を衝撃が襲いました。

トルコ軍の一部部隊が蜂起し首都主要地点や国営放送局などを占拠し市民に対し全土に戒厳令を布告、外出を禁止しました。クーデター部隊はトルコのアタチュルク国際空港を占拠しボスポラスダータネルス海峡上の橋梁を占拠し閉鎖、全ての国際線は着陸地の変更を余儀なくされています。エルドアン大統領は脱出に成功しましたが、大統領派の参謀総長はクーデター部隊に拘禁されました。クーデター部隊は戦車部隊を動員し、主要道路部分へ進出、交通を遮断しました。この第一報が伝わったのは日本時間で三連休の初日に当たる今朝、ジブチに展開中の航空自衛隊輸送機による邦人救出の必要性が出てくるのか、と危機感を感じたしだい。

クーデター勃発、世界へ衝撃が走り、我が国も艦艇情報連絡室を設置し邦人安全情報の収集へ奔走しています。トルコ政府はこれにたいし、政府軍は戦闘ヘリコプターや戦車部隊を含めた鎮圧部隊を編成、夜間に勃発したクーデター事件は大規模な夜間市街戦闘へ展開します。クーデター部隊の背景にはイスラム系宗教団体ギュレン教団が存在するとトルコ内務省は分析しており、従来、イスラム主義的政権運営を進めたエルドアン大統領の政策にあわせ勢力を拡大してきましたが、2013年のトルコ反政府運動へギュレン教団が関与したことでトルコ政府は教団をテロ組織へ指定、その後、トルコ内務省へギュレン教団が組織的賄賂を実施し懐柔を図ったことが判明し大量更迭を実施しています。

エルドアン大統領は脱出に成功した、と続報が入ります。首都アンカラを離れ最大の都市イスタンブールにおいて指揮を執り、鎮圧部隊を編成、ユルドウルム首相はこの事案に対し、一部の将校が指揮系統を無視し政権の転覆を謀ったとし、市民へ抵抗を呼びかけました。一方、クーデター部隊指揮官は、全権を掌握したとして民主的秩序保持と人権保護のために立ち上がったと説明したものの、陸軍部隊の大半と海軍空軍及び憲兵隊が同調せず、クーデター部隊のヘリコプターを空軍の戦闘機が首都上空において撃墜、国会議事堂付近に展開したクーデター部隊主力にたいし戦闘ヘリコプターが航空攻撃を敢行、更に重要地域を占拠したクーデター部隊を鎮圧部隊の戦車部隊が包囲、投降させました。一時は双方が勝利宣言を出しましたが、急速に鎮圧部隊優位へと転じてゆく。

軍事クーデターは失敗した、ウミットドウンダール参謀総長代行が発表しました。欧州とアジアの重要な中継地で発生したクーデター事案は賃悪されました、クーデターに荷担した兵士2839名が鎮圧部隊により拘束されました。しかしこの鎮圧作戦による戦闘で、クーデター部隊104名、警察及び鎮圧部隊43名、一般市民47名、実に194名もの死者が出ています。大統領府に復帰したエルドアン大統領は、次なるクーデターがいつ発生してもおかしくないとして、市民へ協力を呼びかけるとともに、今回のクーデターへの関与した全ての関係者を厳しく処罰し、クーデターの根源を絶つと宣言しています。ただ、今後の粛軍が長期化すれば、トルコ国内での新しい対立を生む可能性があり、今後の対応に注目すべきです。

中東と欧州とアジア安定のかなめ、というべき地域に所在するトルコです。トルコは欧州とアジアや中東の中間点にあり、特にイラクやシリアと国境を接しているためISILなどのテロ組織対策における欧州の最前線である。同時に黒海を隔ててロシアとむかいあい、現在は独立国となったグルジア/ジョージアがソ連邦の一員であった時代にはソ連本土と国境を接していまして、ロシアの中東への影響度増大への抑止力となっています。一方、南部山間部にはクルド族問題が根ざしていますが、同時にNATO北大西洋条約機構の一員でありアメリカの同盟国、米軍基地も所在となっています、特にこの状況から陸軍力の規模が大きく、アメリカ陸軍の規模を上回る兵力を有するアメリカの同盟国はトルコと韓国ぐらいでしょう。

邦人が多数居留しているのもトルコの特色で、特にイラクやシリアという治安が内戦により最悪の状態となっている国が隣国にあるため比較的治安が周辺国よりは安定しています。今回、クーデター事案は早期に沈静化したため、邦人救出という必要性はありませんでしたが、ここまで極端に情勢が悪化するとは考えられておらず、仮に鎮圧作戦が失敗した場合があったとすれば、陸軍兵力が大きく長期化する可能性があったため、孤立事案ともなれば非常に救出が大変なこととなったでしょう、一方、トルコ隣国は、クリミア半島武力併合、グルジア紛争、ISIL攻勢、ここでトルコの安定が喪失すればこの地域の最後の均衡が破綻しかねず、予断を許しません。

今回のクーデターは軍が一枚岩として実施したものではなく、ギュレン教団の影響下にある一部将校が武装蜂起したもので、これはエルドアン大統領が軍を掌握できていないということでは必ずしもなく、ギュレン教団の影響度の大きさに起因するものと考えられます。ギュレン教団はイスラム思想の普及を目指す団体であると同時に、教育普及や無償学習塾などの支援を通じてトルコ社会に深く基盤を有しており、クーデター事案を受け今後エルドアン大統領がギュレン教団関係者を全て法的に監視ないし処罰する施策をとった場合、影響は更に長期化する可能性が否定できません。

北大路機関:はるな くらま
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平成二十八年度七月期 陸海空自衛隊主要行事実施詳報(2016.07.16/17)

2016-07-15 22:44:52 | 北大路機関 広報
■自衛隊関連行事
 フランスのニースにて戦慄すべきテロが発生しました、観光地ニースにて革命記念日花火大会を狙ったトラックによるテロ、犠牲者の冥福を祈りましょう。

 今週末の自衛隊関連行事について。静内駐屯地祭、そして海上自衛隊がサマーフェスタを舞鶴基地、小松島航空基地、阪神基地にて実施します。このなかで、静内駐屯地祭は日本国内の駐屯地記念行事において、唯一、ミサイルの実弾射撃を展示する行事で、地対空ミサイルの射撃が行われ、これは富士総合火力演習でも実施されない非常に稀有な行事といえるでしょう。

 静内駐屯地は北海道太平洋岸にある駐屯地で、第7高射特科連隊が駐屯しており、87式自走高射機関砲と81式短距離地対空誘導弾を装備、射撃場に隣接している事から、標的機を飛行させ、これを実際に87式自走高射機関砲の35mm機関砲、81式短距離地対空誘導弾を実弾射撃し撃墜します。ただ、安全確認上視界不良ですと射撃できません、このあたりは運というものでしょう、ね。

 舞鶴基地、小松島航空基地、阪神基地、サマーフェスタが行われます。舞鶴基地は北吸桟橋の護衛艦と潜水艦、航空基地の航空部隊がともに一般公開されますが、実施が明日土曜日ですのでご注意ください。小松島航空基地は徳島県のヘリコプター部隊基地で本数が少ないですが徳島駅前から路線バスが運行されています。阪神基地は先週に引き続き、というかたちです。

 航空基地のサマーフェスタですが、舞鶴航空基地は第23航空隊、小松島航空基地は第24航空隊、ともにSH-60J/K哨戒ヘリコプターを運用する部隊で、飛行展示や航空機地上展示、車両と装備品展示のほか、様々な工夫のアトラクションが行われまして、飛行展示の度合いは大きくない為余り来場者が集中せず、家族連れで楽しめる行事といえます。

 さて。カメラバックに何を持ってゆくか、これは困るところです、駐屯地祭などで散策していますと、大型のバックパックを背負い、台車を動員する方々、キャリヤーを牽引する方々、なるほど万全の器材を準備したらばそれはいい写真が撮影できるとは思うのですが、改めてそういう方々の隣を往きつつ考えるのは、重そうだなあ、私ももう少し体を鍛えておけばよかったなあ。

 そんな中当方ですが、基本装備は、メインカメラ、予備カメラ、コンパクトデジタルカメラ、望遠ズームレンズ、着換え、文庫本数冊、予備部品、タブレットPC,充電器、折畳椅子、という形になっています、折畳椅子は近年小型軽量なものが多いので便利です。航空祭ですと巨大な単焦点望遠レンズと単焦点望遠レンズ用カメラをもう一つのカメラバックに押し込むか、大型のカメラバックに収容し増加携行する。

 標準装備の場合ですが、新技術でいろいろなものが軽くなったのは、嬉しい。その一つ、タブレットPCの携行でその昔、小型ノートPCを携行していた時代よりもかなり軽量になりました、また、18-200mm、28-300mmズームレンズは一本で複数レンズの役割を果たせるため、機材を統合し軽量化する事が出来ました、予備カメラ等は一眼レフも小型になりましたので助かっています、これこそ技術の進歩を感じますね。

■駐屯地祭・基地祭・航空祭
・7月17日:静内駐屯地創設52周年記念行事…http://www.mod.go.jp/gsdf/nae/7d/event.html
・7月16日:舞鶴基地サマーフェスタ2016…http://www.mod.go.jp/msdf/maizuru/
・7月17日・18日:阪神基地隊サマーフェスタ2016…http://www.mod.go.jp/msdf/hanshin/hanki_news/week/2016sama-.html
・7月16日:小松島航空基地サマーフェスタ2016…http://www.mod.go.jp/msdf/22aw/intoroduction/24fs/top/top.html

■注意:本情報は私的に情報収集したものであり、北大路機関が実施を保証するものではなく、同時に全行事を網羅したものではない、更に実施や雨天中止情報などについては付記した各基地・駐屯地広報の方に自己責任において確認願いたい。情報には正確を期するが、以上に掲載された情報は天候、及び災害等各種情勢変化により変更される可能性がある。北大路機関
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将来小型護衛艦の量的優位重視視点【8】 沿岸部のミサイル部隊と連携し運用補完を期す

2016-07-14 22:02:27 | 先端軍事テクノロジー
■沿岸部のミサイル部隊と連携
 将来小型護衛艦と沿岸防備システム、という視点を前回提示した訳ですが、この部分をさらに踏み込んで。

 この沿岸防備システムとは有事の際の統合任務部隊を編成する場合、陸上自衛隊と航空自衛隊の一部部隊を沿統合任務部隊に加えると共に陸上自衛隊の戦力投射任務に資する任務を海上自衛隊が実施するというものです。沿岸防備システム、若しくは装備体系、というべきでしょうか、この装備群は、北欧諸国が限られた装備体系において国土防衛を実施する上で構築した沿岸砲兵部隊のような装備システム、というものを念頭に置くものです。

 これは、沿岸砲台や地対艦ミサイルに地対空ミサイルと高射機関砲、機動砲兵と小型舟艇部隊にコルベットなどを組み合わせた部隊で、スウェーデン沿岸砲兵隊、冷戦後の今日には水陸両用戦軍団に改編され、軍団隷下に一個連隊を置くという編成を採っていますが、この編成、若しくはフィンランド海軍と沿岸防備に当たるウーシマー旅団を念頭とした運用を考えています。

 沿岸防備システム、具体的には、コルベットやミサイル艇は単体で洋上運用を行った場合、確実に大型水上戦闘艦には太刀打ちできません、コルベットは限られた艦上容積を打撃力に置くことが基本であり、艦隊防空用艦対空ミサイルや広域防空を展開可能となる大型の多機能レーダー等を搭載する能力はありません。

 もちろん、満載排水量1000t程度の小型水上戦闘艦艇であっても無理をすればその搭載は可能です、アメリカのロッキードマーティン社等はイスラエルに対し、小型艦用イージスシステムを提示した事例があります。ただ、基本的な傾向として小型水上戦闘艦艇は波浪による行動能力の限界や燃料搭載能力と乗員居住区画の限界などから長期間の行動を行う事は出来ません野でこの部分を配慮する必要がある。

 これら資材を搭載する事は結果的に合理的ではなく、それを踏まえたうえで小型水上戦闘艦艇には艦対艦ミサイルを第一に搭載し、その上で近距離用地対空ミサイルを転用した艦上防空システム、高射機関砲、船体規模に余裕がある場合には後継の小さな艦砲を搭載する、という選択肢を採っています、そして足りない防空能力は、ミサイル艇は沿岸部へ退避します。

 沿岸部の錯綜地形へ退避する事で自己位置を秘匿するという意味もありますが、陸上に展開する地対空ミサイルの支援下へ退避するという意味も非常に大きいのです、艦隊防空艦を整備できる海軍は少ないのですが、多くの諸国は地対空ミサイルを防空砲兵が装備しています、また、世界でも陸上自衛隊の野戦防空に当たる高射特科部隊の装備は高い水準にあります。航空攻撃を受けた際には沿岸に展開する防空部隊の防空網下に退避し、また、打撃力も陸上からのミサイルによる支援を受け行動するのが基本です。

 将来小型護衛艦は、沿岸防備システムを構成する場合、第一に陸上自衛隊の地対艦ミサイル連隊の目となります、射程180kmという88式地対艦誘導弾やさらに高性能化した12式地対艦誘導弾システムは、その能力を最大限活かすには洋上情報収集能力が沿岸部に展開する標定小隊のレーダーや電子隊による電子標定、将来的に小型無人機による標定を行う方針ですが、この部分は共同運用により能力を向上させることができるでしょう。

 海上自衛隊の哨戒機部隊や航空自衛隊の早期警戒機に当たるような高度な索敵装備を陸上自衛隊は保有していません。そこで、将来小型護衛艦は無人機母艦として沿岸部から索敵を実施する事で、危険な外洋に展開せずとも高度な情報収集と情報管理を行う事が可能となります。この種の任務はデータリンクを構成する事により比較的早く実現しますが、将来小型護衛艦も地対艦ミサイルを膨大な打撃力の持続性とする事が出来ます。

北大路機関:はるな くらま
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南スーダン危機、C-2/MV-22の必要性と国連防護軍編成日中印集団的自衛権行使の可能性

2016-07-13 22:46:08 | 国際・政治
■邦人救出と国連人道危機対処
 南スーダンでの情勢ですが、大統領派と副大統領派が共に戦闘停止命令を出し、その後大規模戦闘は一旦鎮静化していますが、小規模戦闘が断続的に続いており、政府は初の在外邦人陸上輸送へ準備を進めています。現在のところ、邦人の滞在先は安全、とのこと。

 C-2輸送機が完成していたならば、C-130輸送機は小牧基地を離陸し明日にもジブチ航空拠点へ到着するとの報道がありまして、こうした事を今云うのは余りに無意味ですが、C-2ならば今頃邦人救出が完了していたのだが、と。現在運用試験中のC-2輸送機は開発試験において問題さえ発生していなければ、今頃美保基地の第三輸送航空隊において部隊運用が開始されている計画でしたが、機体構造の補強などにより遅延しています。

 C-130では三日間を要する日本本土からウガンダやエチオピア、ジブチへはC-2輸送機が直行できますし、ジブチならばボーイング767と同型のエンジンを搭載し高い巡航速度を有するC-2輸送機は、ジブチまで所要時間で美保基地から12時間程度で展開可能でした、今回の事態を見ますと、開発計画の遅延は、その分、邦人の危険が増大している実情、非常に考えさせられるもの。

 MV-22,陸上自衛隊が水陸機動作戦用に配備する予定の可動翼航空機ですが、仮に今回の事態までに配備されていたならば、航空自衛隊のKC-130空中給油機と協力することで、ジブチ航空拠点を離陸し、そのままエチオピアを越えて南スーダンの首都ジュバ市内、邦人孤立地域へ直接着陸し、邦人を収容、そのまま安全なジブチ航空拠点へ離脱する事も可能でした。

 こうした中、集団的自衛権行使の可能性が急浮上しています。国連安全保障理事会は今回の南スーダン首都ジュバ市内での大規模戦闘に対し、必要な措置を採るとの姿勢を示しており、仮にこの措置の中で、南スーダン国内で繰り返される人道危機に対し、強制措置を採る場合、国連平和維持部隊の国連防護軍への改編も視野に含まれる可能性があり、自衛隊初の集団的自衛権行使事例が南スーダンにおいて実施される可能性が出てきました。

 南スーダン軍、今回の騒乱状態にある南スーダンの陸軍戦力ですが、兵力15万、全土に8個師団と機動運用部隊として機械化師団を置く9個師団の編成で、T-72戦車110両など戦車130両を保有、152mmや122mm自走榴弾砲等自走火砲約30門、その他牽引砲や迫撃砲などを装備しています。南スーダン軍は、建国後、スーダンへの武力攻撃や国内の婦女暴行等人権侵害への懸念が国連調査により指摘されており、衝突が人道危機へ発展する危惧が顕在化する可能性が否定できません。

 国連はどの程度の部隊を置いているのか、南スーダンへ派遣している部隊規模についてですが、南スーダンPKO任務UNMISSの部隊規模は軍事部門11350名と文民警察官1170名を派遣中でエチオピア軍中将がUNMISS司令官、インド軍准将がUNMISS副司令官を務めています。PKO派遣部隊の中で最大勢力を派遣しているのはインド軍の2200名で、この他、陸上自衛隊や中国人民解放軍を始めアフリカ諸国やアジア諸国、大洋州諸国と欧米諸国が一定規模の部隊を派遣中です。

 自衛隊UNMISS派遣部隊は現在、東千歳駐屯地の第7師団要員を中心に南スーダン派遣施設隊第10次要員が派遣中で、中力修1佐指揮下の350名が派遣中です。第7師団は戦車師団ですが、派遣部隊は施設部隊中心で、南スーダン派遣施設隊は、隊本部、本部付隊、対外調整班、施設機材小隊、2個施設小隊、警備小隊、司法警務分遣隊、との編成にてインフラ整備や造成工事と、南スーダン情勢悪化後は医療支援と給水支援を避難民に対して実施中です。

 国連防護軍が仮に編成された場合の自衛隊の初の集団的自衛権行使の可能性ですがですが、中国人民解放軍及びインド軍との間で展開される可能性が出てきました。日中印は南スーダンではともにアジアの一員、元々、集団的自衛権は南西諸島防衛の視点から議論されていたものですが、南スーダンでは同じPKO部隊の一員であり、これまで陸上自衛隊と中国人民解放軍は国際貢献任務に際してはハイチ地震緊急人道支援任務等幾度も協力関係を構築してきましたが。

 日中の防衛協力、安全保障関連法制の法整備において整備された多国間の防衛協力分野ですが、その最初の実施可能性が南方は南方でも南西諸島ではなく南スーダン、中国に対してではなく中国と共に、勿論現在はまだ可能性で、国連が人道危機をそのまま対処せず懸念の表明に終わる可能性もあるのですが、文字通り想定外と云いますか、不思議な巡り合わせです。日中共同の人道危機対処という方策がとられるならば、両国において新しい信頼醸成の道筋が構築できる可能性があります。

 自衛隊邦人救出任務ですが、明日14日にもC-130輸送機がジブチ航空拠点へ到着します、小牧基地から派遣された航空部隊で、陸上自衛隊は、孤立邦人滞在先と救援機が展開する空港との間を、緊急展開させる輸送防護車へ邦人を乗車させ、その前後を軽装甲機動車により警護する方向で調整しており、軽装甲機動車についてはUNMISS派遣部隊の軽装甲機動車を転用、若しくは本土からの緊急展開、ジブチ航空拠点警備用車両の転用など、考えられるでしょう。

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中国に南シナ海管轄権無し、中比南沙諸島紛争へハーグ常設国際仲裁裁判所勧告的意見

2016-07-12 23:08:55 | 国際・政治
■海洋安全保障、画期的判決
 南沙諸島全域において中国の管轄権は認められない、ハーグにある常設国際仲裁裁判所の勧告的意見、判決です。日本のシーレーン安全確保において重要なものとなります。

 今回の判決は2013年にフィリピンが、自国領であるスカラボロー環礁について、中国が不法占拠し、施設建設に対し抗議するために国際司法裁判所において解決を図ったものです、しかし、中国政府が応じなかったため、当事国間の合意を必要とする国際司法裁判所ではなく、より古い長い歴史を持つ常設国際仲裁裁判所へ提訴したものです。常設国際司法裁判所は判事が各国の国際法学者から構成されるもので、事実上、国際法に関する最高度の判断を有する国際機構であり、その勧告的意見は法的拘束力を有するとされます。

 中国の主張、南シナ海のヴェトナム沖からインドネシアとマレーシア沖とフィリピン沖までの航海を自国の管轄権の及ぶ範囲、と主張しています、管轄権が効力を有するのは自国の領海内だけですので、事実上南シナ海全域を自国の領海とした宣言に等しく、これは国連海洋法条約に基づく排他的経済水域や、大陸棚条約に基づく領海の原則からも逸脱するもので、元々、広大な公海を自国の領海と宣言すること自体無理であることは提訴された時点で中国以外すべての国での共通認識でしたが、今回、常設国際仲裁裁判所において確認されたかたち。ただ、常設国際仲裁裁判所勧告的意見は現状を重視する判決も多く、こうした意味から今回の勧告的意見が画期的といえるもの。

 歴史上、リビア政府が同様の発言を行っています、当時のリビア政府独裁者カダフィー大佐は地中海のシドラ湾全域を自国領海と宣言し、死の海域として、そのシドラ湾へ進入した艦艇は無差別に攻撃するとの宣言を行いましたが、当時のアメリカレーガン政権は海洋自由原則として領海外の公海は航行が自由であるとし、空母機動部隊を遊弋、リビア空軍及び海軍が攻撃を掛けましたが、これを全て撃破しました。南シナ海全域が中国の管轄権が及ぶ海域、つまり領海とする主張が国際法上根拠が仮にあったならば、日本のシーレーン防衛にも大きな影響が出た重要な事案でしたので、今回の勧告的意見が持つ意味は大きい。

 南シナ海は歴史的に中国の領域である、という主張が中国政府が繰り返し宣言したものですが、歴史的の定義は自由とはいえ、中国の管轄権が行使されたのは1960年代に入ったものであり、更に1960年代以降、ヴェトナムやフィリピンの領域を武力奪取を含め不法に占有したものです。国際法よりも中国の歴史は長い、との主張ですが、これを始めますと古代文明まで遡り延々と無意味な論争に繋がる為、常設国際仲裁裁判所は、国連海洋法条約に中国が加入している点、中国の不法行為によりフィリピンとヴェトナムから地域を奪取した点、などが今回反映された、ということでしょう。

 中国外務省は今回の判決を無効、と声明を発表しました。対して、フィリピン外相は画期的判断、としています。しかし、中国政府は反発しており、常設国際仲裁裁判所勧告的意見に先んじる9日から、海南島と西沙諸島の海域において海軍演習を実施、制空権確保と対水上戦闘を中心に対潜水艦戦闘までを含めた演習を実施しています、これは国連憲章が示す武力行使に当たるもので、常設国際仲裁裁判所勧告的意見へ軍事力による示威行動を行うという施策に他ならないものでした。今後、中国は国連加盟国であり国連安全保障理事会常任理事国である立場から、国連海洋法条約を逸脱する事は出来ず、無法国家との批判を免れるための施策が必要となる。

 法的拘束力は国際法にあるのか、との視点ですが、幾つかの視点から法的拘束力はあるもの、という学説が現在では主流となっています。元々国際法の根底は1648年のドイツ30年戦争終戦における諸国家間の合意に見出す事が出来ますが、その後の慣習の積層が現代国際法が国際法を形成しました、故にこれまで諸国家間の関係を構成した前例に基づくものであり、此処から逸脱する事は自由ですが、各国との合意、若しくは国家間合意に依拠するものでなければこの合意の慣習という体系化が有する制度から逸脱する事は、一国が自国民向けに宣言する事は出来たとして、多国間での認識の共有に至らしめる事は出来ません。

 国際法の法的拘束力について、もう一つ大きな命題は、諸国家が基本的に自国の不法性を指摘された際に、独自の解釈を積み重ねる過程を経て、国際法上合法である、という主張を行っている事で、これは国家慣行の慣習から外れる行動に対して、その合法性を国際法に求めている事から、判断基準に国際法を置いている事に他ならず、国際法上違法ではない事を強調すること自体が、黙示的に国際法の法的拘束力を認めている、というものです。中国の選択肢には、国連海洋法条約秩序から脱却する事ですが、これは国連からの離脱を意味する事であり、現実的ではなく、今後中国政府は、今回の常設国際仲裁裁判所勧告的意見へ反発する声明と共に、その法的整合性構築へ苦悩することでしょう。

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