光さえも引き込まれてしまう天体ブラックホールはどうやって観測するのだろうと思っていた。人間は光やX線とか電波とかの電磁波で天体が存在するかどうかを観測するのだから光や電波が出てこないと天体の存在を観測できない。だからブラックホールとは単に言葉の遊びではないのかと思っていた。
最近亡くなった物理学者の中村誠太郎さんが「科学朝日」に昔書いていたのでその謎がわかった。確かにブラックホールの中からは光も出て来れないが、ブラックホールへと落ちていくその周りの物体や物質は加速されるので光やX線が放出される。したがって、ブラックホールの存在はそのようなX線やガンマ線を出している強い電磁波線源のきわめて近くにあることがわかる。それで、ブラックホール自身はその存在が間接的にわかるのである。
ブラックホールの従う方程式は一般相対論のEinstein方程式だろうが、これをいつだったか日本に来たChandarasekhrが古典力学的に説明している講演記録を物理学会誌で読んで、すぐに入試問題として出題したことがあった。また、これは最近のことだが私の小著「数学散歩」にもこの初等的解説を再録した。
ChandarasekhrはChicago大学の天文台に勤めていて、彼の教えた学生LeeとYangはノーベル賞を受けたので自分の大学院生がすべてノーベル賞を受けたといったそうであるが、その後Chandarasekhr自身もノーベル賞を受賞した。Chandarasekhrはインドの生んだ偉大な天文学者である。