β崩壊は電子が原子核から飛び出してくる現象である。
それだから原子核の中に電子が存在しているであろうと誰でも素人は考える。いや、素人でなくとも昔の科学者はそう考えていたのだ。しかし、電子が原子の構成要素であることはいろいろ矛盾をはらんでいることがだんだんと分かって来た。
それで現在では電子は原子核の構成要素だとは考えていない。ではないものがなぜ原子核かとび出して来れるのだろう。そういうことを授業で質問して、しばらくだが考えてもらうことにしていた。
物理学を学んだ人ならば、それは原子核内の中性子が陽子と電子に崩壊して、その電子が核内から放出されるのだと知っている。すなわち、電子は核内に存在はしないが、中性子の崩壊によって創り出されるのである。
その解答を聞いてしまうと「なあんだ」ということだが、授業中のしばしの時間を「β崩壊の謎」で学生たちを悩ましていた。そして、これは実は粒子の生成と消滅を取り扱う「場の量子論」への端緒にもなる。