戸田清先生を知っている人はかなり年配の方に違いない。
私が高校生のころ旺文社のラジオ受験講座で一世を風靡した先生である。戸田先生と田島一郎先生はコンビで共にわかりやすい、いい数学の講義をなさっていた。
中学2, 3年、高校1, 2年とあまりいい先生に教わらなかったので数学がわからなくなって興味を失って英語学かなんかを大学で学ぼうかと思っていたが、高校2年のときに人生の行く先を考えて理系に戻ることにした。それはかなりつらい決断だったが、その決断は間違っていなかったと思う。
その決断を促したのは戸田先生のラジオ講座と高校2年の中ごろから読み出した藤森良夫先生の書いた『解析の基礎』というシリーズの受験参考書だった。
『解析の基礎』前、後、続(考え方研究社)から代数計算の仕方を学んだ。また戸田先生のラジオ講座から合理的、科学的思考を学んだ。それが私の本来持っていた、科学嗜好を呼び覚ました。
大学の物理学科の同級生はほとんど小さいときからずっと続いて理科や数学が好きな者ばかりだったが、私はいったん挫折しかかっていたので、そういう学生は珍しかった。
思うに教育っていうのは気の長くなるような話である。戸田先生や藤森先生のおかげで今日の私がある。そしてそれに感謝の意を表明するということもいままでなかった。
「穀物を植えるのは1年の計、木を植えるのは10年の計、人を教育するのは100年の計」と高校の漢文の時間に教わったが、まさにその通りである。