この小説を読んだことはないのだが、12月9日の日曜日の夜にテレビでその映画を見た。あらすじは省略して、要するに「博士の愛した数式」はe^(i ¥pi)+1=0 である。ここで、¥pi は円周率を表している。これは不思議な数式であるが、またある意味ではちっとも不思議ではない。
オイラーの公式といわれるe^(i x)=cos x +i sin xを知っている人で、その幾何学的意味が実軸上で0から1に向かった矢印→を原点Oの周りに角度を弧度法(ラディアン)で測って角度xだけ反時計方向にその矢印を回転させることだと知っていればすぐにわかる。
いま0から1に向かっていた矢印→を¥piすなわち180度反時計方向に回転させれば、0から-1へ向かう矢印→となる。すなわち、e^(i ¥pi)= -1が得られる。この式の両辺に1を足せば,e^(i ¥pi)+1=0 が成り立つ。
どうも小説では意味深長で神秘的に聞こえる、この関係をなんでもない散文的なものにしてしまうから、「科学者なんて毛虫のようだ」なんていわれるのだろうが。
「毛虫云々」は物理学者・武谷三男が太平洋戦争後につづり方研究会に出て、「梅毒で頭がもうろうとした人からいい文学が生まれるのとサルバルサン606号やペニシリンで梅毒が治って文学が生まれないのとどちらがいいのか」という意見を述べたときに、その会に参加していた、ある女性が武谷を「毛虫のようだ」と評した故事にちなむ。
武谷三男はするどい論調で皮肉をいつも言っていたとか。それで、武谷の口には毒があるといわれたという。また彼のあだ名は「ゲジゲジ」だったらしい。
これはトップシークレットです。もっとも大阪大学理学部の第2回の卒業生だった、すでに故人の長谷川先生によれば、大阪大学の理学部の創設の初期にそこをしばしば訪れていた武谷は寡黙だったという。