「自発的対称性の破れとカスプカタストロフィー」というのは私たちが1970年代の半ばに私たちが書いた論文の題名である。
もう30年以上も前の短い論文である。そのことなどまったく忘れていたのだが、夢うつつの中で「自発的対称性の破れ」についての「ファイ4乗理論」の話をどうも思い出していたらしい。
これは私が自発的対称性の破れの意味をはじめて理解した例であって、本当は南部陽一郎さんの論文を読んで知るべきところをこのファイ4乗理論で自発的対称性の破れということの意味をはじめて知った。
私にもわかるようにphysics reportに書かれていたのだ。多分これはAbers and Leeのレビューであったろうか。それを読んでやっと自発的対称性の破れがどういうものかを知ったのであった。
大学院を出た後に、基礎物理学研究所に非常勤講師として半年ほど勤めていた頃に所長の湯川先生が自発的対称性の破れという概念は物性から来た概念だが、いまは素粒子で一般化しているとよく言われていた。
1968年のことだから、Weinberg-Salamの理論は出されていたはずだが、W-S理論はまだまったく注目はされていなかった。
湯川先生にとっても旧知の南部さんが出された重要な概念ということはわかっておられたのであろう。なんどか「自発的対称性の破れは---」とか言われるのを伺った気がする。
「Gell-Mann何するものぞ」という感覚の湯川先生だのにこの自発的対称性の破れは新しい概念だということは認識しておられたに違いない。
話は違うのだが、ある事情でカタストロフィーという概念を知り、その中で一番簡単なカスプカタストロフィーがファイ4乗理論のポテンシャルと同じ形だということにはすぐ気がついた。
それでこのポテンシャルをカタスロフィーの観点から見るとどういうことになるのかというのが、私たちの論文の要旨である。
なんてこともない論文だが、特にレフェリーの異論もなく英国の雑誌Proceedings of Royal Societyに載せられた。
その論文は共著者の人たちが英文を書いてくれたり、図を描いてくれたりしたが、アイディアはあくまでも私自身のものである。こんなことを言うと共著者のNさんとUさんとがくしゃみをしているかな。
ちなみにfirst authorは当時私の上司のA教授だった。共著者のNさんとUさんとが私の置かれた状況を知っていて文句を言われなかったのは有難かった。
どうしてこんなことを夢見るのか、今朝の夢うつつの状態の無意識から浮かび上がってきたのか不思議であるが、その理由は特に思い当たるものがない。
(2009年5月27日付記) その後、2008年度のノーベル賞を「自発的対称性の破れの発見」の業績により南部陽一郎さんが受賞するとノーベル賞委員会から発表されたのはこのブログを書いてから数ヵ月後の2008年の10月半ばであった。