一期一会とは茶道の言葉である。
お茶をたてて客人に茶室で飲ませる。それだけの単純な行為だが、その行為は一生に一度しかないような不思議の縁だという。
ところで、妻が「歌声エコーズ」という、月一回歌を歌うグループを主宰している。
大手町の喫茶店「路」で一月に一回水曜の午後集まって、歌集本から、好きな歌をリクエストして、一緒に歌っている。私自身は一度もその場に出席したことはないのだが、そういうグル-プができている。
会員の資格とかはまったくない。すなわち、誰かすでに来たことのある会員の紹介があれば、誰でも参加できる。
もともとは松山市民劇場の一つの趣味のクラブとして発足したらしいが、いまでは市民劇場のクラブ活動ではない。
その会に先回と、先々回、私たち夫婦の知人である、Kさんが参加されたが、昨日の会には出て来られなかったらしい。それで、昨夜妻がどうされましたかと電話をかけて様子を聞いたら、最後にみんなが手をつないで歌うのが「子どもっぽすぎる」とのご意見であったらしい。
Kさんは、医師の、優秀な方であり、そのいうことは一応その通りであろう。しかし、妻はそれに対してこう答えたそうだ。
実は私たちの会はなんでもない会のようだが、急に来られなくなった方があり、お家に電話をしたら、先日亡くなりましたということを知ったり、ご主人が病気になって看病で外に出られないとかいった出来事が常に起こっている。
それで、なんでもない集まりのようだが、「一期一会の集まりなんです」と。だから、手をつないで最後に歌うのはそういう事情まで含んでいる。
歌の会に集まる方々はほとんど女性であり、またその音楽を担当してくださる田附里英先生も献身的にキーボードを弾いて下さっている。それもボランティアである。
そういう優れた歌の指導者を気安く使っているというのも本当はすまない話ではあるが、いつも先生のご好意に甘えている。
そして、田附先生の歌の魅力に引かれて、だんだん参加者が多くなっている。また先生のご提案でときどき比較的気楽に歌の合唱の会に参加することもある。
しかし、そのようなことはあってもほとんど会に参加することによるなんらの拘束はない。参加したときにコーヒーなどの自分の飲物を注文してその代金を支払うだけである。定常的に会費を払うことも必要ではない。
もっとも会計の計算の都合上で、飲物代に加えて一人数十円の負担をお願いをしているらしいが、それにしてもこのせちがらい今の世には珍しい、お得な歌のグループである。
そして月に1回のこの会に出てきて、ご自分の生活の気分展開をはかっている、年配の女性はなんと多いことだろう。