このところ私の知人からバビロニア数学で使っていた、円周率の数値が3.15であったということについてのエッセイというか小文が送られて来ている。
話は中村滋さん(東京海洋大学名誉教授)の雑誌「数セミ」(旧数学セミナー)のコラムの原稿が武藤 徹先生(数学思想史研究家)のところへ送られてきたことから始まる。
もっともその前に中村さんは「バビロニアの数学」(東京大学出版会)の著者室井さんの最近の数学史の論文を読んでコラムを書いたらしいから、その源は室井さんまで遡ることになる。
その経緯はともかく、武藤先生は中村さんのコラム原稿を自分で計算して解説を試みる、エッセイを書かれた。武藤先生とはまだ個人的に面識がないが、すでにメールのやり取り等をさせてもらっている間柄であるので、この解説を私にも送ってくださった。
それを読ませてもらって少しづつバビロニアの数学での円周率の決定法がわかってきたのだが、武藤先生の導かれた円周の円弧とその弦とではさまれた(半月形の部分)面積を与える、現在の数学で与えられる式とバビロニアでのわかっていた、と思われる室井さんの発見した式と間にあまりに式の形が違う。
それで、その二つの式の数学での同等性を示したいと数日頑張ってみたが、どうも現在の式からバビロニアの時代の式へと導くことができない。
それでひょっとしたら、円の半径がある特定のところでは一致するが、その他の半径ではずれが大きくなるのかなと予想したので、円の半径を変えて二つの式で面積を計算してみた。しかし、円の半径を変えて計算をしたが、面積は数値的にはぴったりとあっていて、違いはでない。
それで、この面積を与える式の違う部分を等しいとおいて、円周率を計算してみたところなんのことはない、室井さんが推測した円周率3.15が得られるという既知の結果に終わってしまった。やれやれ。
(付記) このブログを書いてから、数時間後に、二つの三日月形の面積の公式の同等性を見つける方法を考えついた。その要点は中心角が120度の場合には円弧aと弦の長さbとがa/b=1.2に近いということがカギとなる。
その後、この顛末は『数学・物理通信』2巻4号に武藤先生の投稿論文の補遺として発表された。