私たちの知っているS氏は背が2mに近いドイツ人の若者である。そのS氏が最近フライブルク大学で学位をとった。
S氏は現在京都のK大学の研究所に勤めているのだが、学位をとるために数週間ドイツに帰国していたらしい。それが数日前にめでたく博士号の学位をとって日本に戻ってきた。
彼は7,8年前に松山に留学していたので、その時に知り合った。久しぶりに会えたのはドイツ語のクラスの世話人を務めるOさんから昨日の午前中に電話があって、急遽、昨夕に南堀端のレストランのアミティエで夕食を一緒にとった。
ドイツでもやはり学位をとることは珍しく、家族にとってはまた誇らしいことで、Sさんの家族もその学位の審査会に出て来られたらしい。その家族の写真を携帯で見せてくれた。奇妙な博士帽をかぶったS氏の写真もあった(注)。
審査会での口頭試問等が終わって、合格発表まで20分くらい待っていたらしいが、そのときはやはり内心はひやひやであったという。
いや、普通に審査会が行われるまでに至るとそこで学位の授与の決定が覆ったりはしないものだが、本人にしてみたら、一抹の不安がないわけではない。
その学位論文を印刷した小冊子をS氏から昨夜貰った。タイトルはSperical Tensor Algebra for Biomedical Image Analysisというものである。
中を開いて見ると群論のSO(3)の話が出てきたり、WignerのD関数が出てきたりするので、まるで数学のようである。
もちろん、基礎理論はそういうところに根差すのであろうが、しかし応用は厚さのある物質を医学的にその物質をくるりと回転させて像をとり、そこからいろいろな情報を得ようとするのであろう。
だから、これはある種の医学的な応用であるのだが、その基礎はしかし物理や数学にもとづいている。
そういう分野を開いた方はなかなかすばらしい方だと思う。そして、その分野で今も働いている、Sさんもなかなか優れた方である。
このSさんは実家がスイス国境に近いところにあり、子ども頃は森を抜けてスイスに遊びに行くことなど普通のことであったと話してくれた。
google mapで実家の近辺の写真を見せてくれたが、スイス国境から数百メートルもは離れていないと思われた。車でスイスに入るには入国手続きとしてのパスコントロールが必要だが、自分の子どものときの経験としては森の中を通り抜けてスイスに行くことなど日常茶飯事であったという。
このSさんは日本語も少しは話すが、基本的にはドイツ語がメインで日本語とのちゃんぽんで私たちは互いの意志の疎通をはかっている。もっとも私のドイツ語など片言にも入らないであろう。
(注) 博士の学位をとった直後にまわりの友人たちが博士帽と称する帽子を贈り、それをかぶったご本人と写真をとるというような習慣があるらしい。
友人たちに贈られた帽子はやけに背の高い帽子であったが、もう一つ妹さんがつくって贈ってくれた帽子はそれほど奇妙ではなく普通の博士帽であった。
ちょっと英国で紳士が被る山高帽をそれほど高くはしないで、かつ角のとれた、柔らかみを帯びたようなものを想像してほしい。