数式を表すときにはわかりやすくするためには、できるだけギリシャ文字を使わないとか、添字のついた文字を使わない。
こういう自分に課した決まりは、もちろん、なかなか従うことができない。それでもそういう規則を自分に課したほうがいいのではないかと、いつも思っている。
自分のことを言って申し訳がないのだが、小著『四元数の発見』(海鳴社)を書いていたときにもそのことを自分に課していた。だから、他の四元数の本と比べて読みやすいのではないかと思う。もちろん、この自分に課した規則に完全に従うことは不可能ではあった。
別に数式の中にギリシャ文字を使っても内容が難しくなるわけではない。同様に添字のある文字を使っても内容が難しくなるわけではない。いわば、慣れの問題ではある。
しかし、私自身はギリシャ文字を使った式を見たら、やはり難しそうに感じる。また添字付きの文字を見たら、難しく感じる。
唯一仕方がないのは、テンソル解析を扱うときには添字付きの文字を使わなければならない。これは仕方がない。
できるだけ添字のついたテンソルを扱わないために微分形式を使うとか、そういうこともあるが、それでもフランダースの著書『微分形式の理論』(岩波書店)でも微分形式を学ぶと言ってもテンソルを廃止はしないとフランダースは断っている。
それと{ }をできるだけ外側に使い、それより内側では( )と[ ] とを使う。日本では私もだが、数式の内側から「かっこ」としては( )、{ }、[ ]を使うように教えられている。
だが、順序を変えて( )、[ ]、{ }を使うほうがよい。これはアメリカとかヨーロッパとかで現在行われている。もっとも昔の本では日本式の数式の表示もときどきは見られる。
50年以上も昔、博士論文の研究をしていたころ、その計算のフォーマリズムを学ぶためにGoldbergerの"Collision Theory" で、( )、[ ]、{ }の順にかっこが使われていたのだが、そのときにはそういう使い方の違いがあるとは気がつかなかった。
その後、何年もして、放送大学のラジオのテクストだったかをもらったか、その放送を聞いたときにそういう注意がされていて初めて知った。これなども単なる慣れの問題だが、最近では{ }が使われているのを見るとあまりきれいに感じないように私の感覚が変化してしまった。
「数学・物理通信」の常連の投稿者であり、編集委員にもなってくださっている、Sさんの原稿の数式ではかっこが{ }のかわりに [ ]がちゃんと使われており、読みやすく感じるのはさすがである。