パイスの『20世紀の物理学者たち』という本をいま読んでいる。パイスはオランダ生まれのアメリカの物理学者である。プリンストンの高級研究所というアインシュタインがいた研究所の終身教授だった方であり、ボーアだとかアインシュタインだとか20世紀を代表するような学者と親しかった学者である。
終身教授になっていたのだから、別に高級研究所から変わらなくてもよかったのかもしれないが、この研究所は学生をとらないで、研究だけをするところなので、ある時期にロックフェラー研究所に勤務先を変えている。
学生がいない研究所は要注意というのは有名な物理学者のフェルミが中国系の物理学者ヤンに忠告したとおりであるが、多分にそのことのデメリットを感じるようになったのかもしれない。
有名な物理学者のゲルマンの人柄がよくないとあからさまに書いてあるので、よほど頭に来たのであろう。ゲルマンは頭のいいやつだとは書いてあるし、自分よりも優秀だとも書いてある。ただ、人を彼ほどは不愉快には自分はしていないと書いてある。
ゲルマンがeightfold wayの論文を書いたときにこのパイスだったか、マルシャックだったかが坂田モデルにもとづくIOO(池田、小川、大貫)論文とどこが違うとか言ってレフェリーとして論文にするということを拒否したので、このeightfold wayの論文はプレプリントのままで流布したとか以前に聞いたことがある(注)。
だいぶん読んだので終わりが近いが、自分の関心事に引き寄せての読書なので飛ばし読みで、通読ではない。
(注)eightfold wayの論文は物理学者にはSU(3)論文として知られている。上に引用したIOO論文はSU(3)ではなく、U(3)を素粒子に導入したものであり、素粒子物理学に群論を導入したことではIOOの方が1年くらい早かったのだが、メソン(中間子meson)の8重項はIOOで予言したが、重粒子(baryon)の8重項(octet)を予言できなかった。ゲルマンの論文はメソンだけではなく、重粒子の8重項を予言したのでその点がIOOよりも優れている。
坂田モデルでは陽子(p)、中性子(n)、ラムダ粒子(\lambda)を素粒子の複合模型の基本粒子とするので重粒子の8重項を予言することはなかなか難しい。しかし、すこし後でゲルマンは重粒子の8重項のもとになる基本粒子として上の3つの重粒子p,n, \lambdaに対応した3つのクォークu,d,sを考えた。これは電荷とか重粒子数とかが分数であることからはじめなかなか受け入れられなかった。
ゲルマンの考えたクォークモデルは後で小林-益川によってさらに拡張されていまではクォークは6種類
(u,d),(c,s),(t,b)となっている。それぞれ2重項をなす。ちなみにu: up quark, d: down quark, c: charm quark, s: Strange quark, t: top quark, b: botom quarkと呼ばれている。名前は他の名付け方もあるかも知れない。