ベクトル三重積の公式の覚え方としては「back-cabルール」というのは知っていた。
すなわち、*をベクトル積の記号としてここで使えば、A*(B*C)=B(A・C)ーC(A・B)というのである。
ところがベクトル三重積としてでてくるのは、上にのべた場合以外に(A*B)*Cという場合もある。もちろん、これを(A*B)*C=ーC*(A*B)としてback-cabルールを使うこともできる。
ところが、「中央項ルール」というのもあるらしい。これはスウ『ベクトル解析』(森北出版)22に書かれてあるのだが、つぎの訳でみなさんは理解できるだろうか。
===========================================================================
(以下、訳を引用する)
ベクトル積は、「中央項ルール」に注目しておけば、覚えることは楽である。
ベクトル積は、中央のベクトルに注目すること。中央のベクトルの係数は、残りのベクトルのスカラー積であり、これから中央ベクトルをかっこの中に入れ、係数を残りのベクトルとのスカラー積とした他のベクトルを引く。
(以上、引用終わり)
===========================================================================
(A*B)*C=(A・C)Bー(B・C)A
なのであるが、上の文章から後ろの部分ー(B・C)Aが出てくることが、私には読み取れなかった。これは訳者の訳がよくないのではなかろうか。意味するところはどうであろうか。
本来の原文の意味するところをどうであったろうか。私の推量はつぎのようである。
ベクトル三重積の場合にはかっこで囲まれた二つのベクトル(A*B)*Cの場合では(A*B)*C=aA+bB, a,bはスカラーとする。
要するに(A*B)*CはベクトルAとBとの1次結合で表される。それで係数のa, bを決めればよいのだが、ベクトルBの前の係数は、Bが中央項であるから、そのBを除いたAとCとのスカラー積(A・C)である。つぎに、もう一つの項はベクトルAのスカラー倍のベクトルである。その係数はベクトルAを除いた残りの2つのベクトルのスカラー積(B・C)をつくり、その係数をベクトルAにかけて引けばよい。
こういうような意味だろうと推量したが、それにしても上の訳文で今のような内容が読み取れるであろうか。なかなか読み取りが、難しいと思う。世の中の頭がいい、皆さんのお考えはどうであろうか。
いまのような考えだとback-cabルールも同じように考えればよい。ちょっと考えてみると
A*(B*C)=B(A・C)ーC(A・B)
が得られることがわかる。このときにも、やはりA*(B*C)=aB+bCであることは当然であるとしている。
中央項のベクトルBの係数はB以外の残り二つのベクトルのスカラー積であり、こちらはマイナスの符号を含まないが、中央項ではないベクトルCのほうを独立なベクトルとして使うときには、係数は残りのベクトルAとBとのスカラー積ではあるが、引き算してマイナスの符号が入る。
要するに、中央項のベクトルの方には係数にマイナスをつけず、中央項ベクトルではない方には係数にマイナスの符号がつく。
以上は単なるベクトル積の結果を覚える記憶術であるので、あまり本質的なことではない。
(2021.2.22 付記) 最近、インターネットのサイトでだったと思うが、この中央項ルールを説明してあるのを見た。世の中には結構頭のいい人がいるものだ。説明はここでした説明と同じである。
(2021. 4. 23 付記) この中央項ルールはベクトル積のベクトル積にも一般化できることに気がついた。これはもともとのベクトル三重積の記憶術の中央項ルールが成り立つから、当然のことであろう。
しかし、2年ほどこのことには気がつかなかった。昨日だったかにベクトル代数の公式を見るともなしに見ていて気がついた。こんなことを書いてすぐに了解する人は少数でもおられるのだろうが、私みたいにわからない人もおられるだろうから、また、「数学・物理通信」に書き留めておくつもりである。
(2021.10.5付記)
このベクトル三重積の公式の覚え方は「数学・物理通信」9巻3号(2019.6.20)に述べた。インターネットで検索してみてください。
(2024.2.29付記)
数学ではないかもしれないが、ベクトル三重積を計算する立場に立つとこの上に述べた記憶法を知っているかどうかで計算が大いに楽になる。この中央項ルールの記憶術をバカにはできないと考えている。
こういう知識は単なる記憶法ではあるが、こういう記憶法があると知っていれば、計算に苦労せずに済んだのにと思う。Back-Cabルールは知っていても他のベクトル三重積が出てくると処理は結構面倒であると思うからだ。
数学者にはどうでもいいことだろうが、実務家にはこの記憶法は便利である。