鳩山由紀夫総理(民主党代表)は21日夕方、首相官邸に同党の小沢一郎幹事長を呼び出し、「暫定税率を廃止する」と通告しました。
2008年4月1日、暫定税率の失効は、まさに民主党の青春の思い出であり、野党が政治を変えた憲政史上最大の出来事でした。
小沢幹事長は、16日、揮発油税(ガソリン税)の暫定税率を維持すると読める「重要要点」という謎のペーパーを鳩山総理に突き付けていました。
マニフェスト通り、国民目くらまし暫定税率は廃止し、税収難とガソリン価格の安定という現状を踏まえた、緊急避難的な代替財源(税制含む)に切り替えることを決断。小沢幹事長の要求をはねのけ、総理の求心力を高めることに成功しました。
最終局面で、特別会計などから毎年出てくる「フローの埋蔵金」があるから、暫定税率を廃止しても大丈夫だという、総理側近議員の助言が決断を大きく後押しした、との観測が浮上しています。
重要要点からほぼ24時間後。17日午後5時45分から、国会内民主党幹事長室に鹿児島県選出議員と県議団が小沢一郎さんを訪れ、具体的な政策提言をしました。
このとき、小沢幹事長は「地方の経済は厳しいから、こういう要望は大事だよね。要望に応えるために、地方の皆さんが自由に使えるお金として、地方交付税1・1兆円、国交省・農水省に使い勝手の良い基金1・1兆円超を用意するよう、鳩山総理への重要要点に盛り込んだ」という趣旨の発言をしました。
この発言はおそらく、「政策要望を受け付けない」という意味で、「地方交付税と新基金の総額2・2兆円に期待しろ」とうっちゃったのだと思います。
この新しい歳出は「2・2兆円超」です。一方、歳入で維持するように「重要要点」に盛り込まれた暫定税率の額は「2・6兆円」。額が似通っています。
この場に居合わせた総理側近は、強面の幹事長にひるまず、「ああ、だから私はガソリン値下げ隊長をクビになるんですね」と切り返した、と出席者が証言しています。これは、「北朝鮮」とも揶揄される政権交代後の民主党では勇気ある発言です。
これに対して、小沢幹事長は「君が隊長だった頃のガソリン価格は180円ぐらいだったろ。今よりずっと高い」として、「(埋蔵金など)財源はあるんだけど、政府の中には『財源がない』と言っている人もいる」と語りました。これは、暫定税率を続けたうえで、来年度以降、ガソリン高騰の局面に、租税特別措置法(粗特)の暫定税率をいじることもあり得る、との考えを示したものでしょう。
この場合、「暫定税率廃止」のマニフェストは「先送り」であって、「違反」ではありません。なぜなら、2008年4月の暫定税率失効に困り果てた自民党政権は、法律の付則で、暫定税率を向こう10年間、2018年3月31日まで延長していたからです。
総理側近はこの日はここまでで議論を止めて、幹事長室から出ていったようです。
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さて、その2日後。鳩山総理はコペンハーゲンから帰国すると同時に、首相公邸に側近を呼び、小沢幹事長からどのような話があったか、聞きました。この会合は秘書官も同席せず、サシで行われました。
この中で、側近は「総理、マニフェストの旗は絶対に降ろしてはいけません」として国民との約束である暫定税率廃止の御旗はけっして降ろしてはいけないと進言したとされています。
その上で、新たな財源(埋蔵金、税外収入)として、
①外為特会②財投特会③一般会計の不用額④特別会計の不用額--という4つの毎年出てくる「フローの埋蔵金」について、ペーパーを見せながら詳しく説明したようです。
側近の話を、興味深く聞いた総理は、「これは菅副総理に話しておいてくれよ」と言いました。しかし、側近は「実は、副総理には1ヶ月前からアポを取っているのですが、財務省から出向している秘書官が会わせてくれないのです」と嘆くと、総理は目を丸くして、「それは本当かい?」と驚いたようです。
そして暫定税率をめぐる小沢幹事長とのやりとりを聞いた総理は
「なんで君が(暫定税率を廃止しろと)幹事長に直接言ってくれなかったんだい?」
と聞くと、
「そんなこと怖くて言えませんよ」。総理は「そうだよね」とうなずきました。
公邸を後にする側近の背中を見ながら、鳩山総理は、建物に彫り込まれたフクロウの像に向かって、「彼もガソリン値下げ隊長を卒業して、立派な与党議員に成長したな」とつぶやいたとか、つぶやかなかったとか。
政府外議員であっても、鳩山政権を守り抜こうとする側近の後押しが、総理の勇気につながりました。
ガソリン値下げ隊の志とあの日と変わらぬ澄んだ瞳があれば、民主党はどんな苦難も絶対に乗り越えることができます。