【2011年6月22日(水) 衆院本会議】
衆議院は22日の本会議で、第177回国会の会期を「70日間延長」し、8月31日(水)までにすることを決めました。国会法13条により、衆院の議決が優先しました。
国会法12条では通常国会(常会)の延長は1回のみですので、
第177回通常国会(常会)の会期は平成23年(2011年)1月24日(月)から同年8月31日(水)までの220日間となりました。
民主党政権での会期の延長は、第174臨時国会以来2度目。
通常国会の延長は2年ぶりで、民主党政権としては初めて。
第71回特別国会(第2次田中角栄内閣)の280日間、第96回通常国会(鈴木善幸内閣)の244日間、第13回通常国会(第3次吉田茂内閣)の235日間、第61回通常国会(第2次佐藤栄作内閣)の222日間に次いで、国会史上(あるいは憲政史上でも)5番目に長い会期の国会となりました。
衆本は、午後1時の設定でしたが、3時間遅れた、午後4時から開かれました。
横路孝弘議長が、「会期を70日間延長して、8月31日までとしたい」と発議。
民主党を代表して「会期延長」の賛成討論に立った高山智司(たかやま・さとし)さんは「(今第177回通常国会では)ここまで67本の閣法、16本の議員立法、12本の条約が通っている」として、野党会派への感謝の念を示しました。「震災復興に与野党はありません」「我々はただひたすら働き続けるしかありません」「震災復興に夏休みなし!会期を8月31日(水)まで延長し、(与野党の)みなさん、全力で働きましょう!」と述べました。
また、高山演説では、「この国難を乗り越えるには、与党も野党も歩み寄るべきところは歩み寄る。譲るべきところは譲る。そうしないと乗り越えられません」「私たちの仕事は法律と予算をつくることです」「なによりも大切なことは、復興の道筋をつける本格的な第3次補正予算を早期に成立させることです」と含みを持たせて呼びかけましたが、この「3次補正」が今国会中になるのか、次の国会になるのかが焦点となります。仮に首相を代えるとなると、今国会および8月末に間に合わず、遅れることになります。8月22日(月)の週に3次補正を提出すると、ギリギリで会期内に成立させられる可能性もあります。しかし、仮に代表選や首班指名があるとまずムリです。ここが味噌の「70日間延長」というアイディアであると思われます。ここ数日、「いったい会期の延長と延長幅に何の意味があるのか?」と思っていた人が多いでしょうが、通常国会の延長とその延長幅には、「この国のかたちに対する思想」が結集した議案だと私は考えています。
会期の延長に関する与党の賛成討論には、国会運営で評価の高い若手議員が起用される傾向があります。これは国会全般の流れについて、深い理解が必要だからです。民主党議員が与党議員として、会期の延長の賛成討論に立ったのは、きょうの高山智司さんが結党以来初めてとなりました。第173回臨時国会の延長時には、民主党による賛成討論はありませんでした。このときは、当時の小沢一郎幹事長が山岡賢次・国対委員長に指示して、与党・民主党の演説は省かせたため、議長の発議の後、野党の反対討論が行われ、その後の、採決の結果、発議が圧倒的多数で「賛成」されるという流れがおかしい議事録が残ってしまいました。このため、「政権交代の夏」から3ヶ月と余韻が冷め切っていない1年生議員が大いにクビをひねりました。ただ、この少し前に、小沢幹事長の依頼で講演した東大前総長が「通年国会」に言及したことから、多くの1年生議員が次々とブログで「通年国会が必要だ」と記したので、つくづく「洗脳って恐いな」と恐れおののきました。
閑話休題。
これに先立ち、自民党は木村太郎さんが反対討論。高山討論につづいて、公明党は反対の立場から討論に立ち遠藤乙彦・議運理事が「不信任案を出したら、前日に(民主党小沢グループが)70人結集した」「それで代議士会での菅首相の発言につながった」とし、「総理の延命と保身のための会期延長だ」としました。日本共産党の佐々木憲昭さんは賛成討論しました。社民党は服部良一さんが賛成討論をしましたが、話し合いが「大政党だけだった」と注文をつけました。みんなの党も山内康一さんが賛成討論し、同党が「通年国会を主張している」ので、70日間の延長幅は「まことに不十分だ」と述べました。起立採決の結果、賛成多数で議長の発議通り、会期は8月31日(水)まで延長されました。
〈延長国会の見通し〉
今次延長国会では、衆・財金委にとどまっている「特例公債法案(平成23年度赤字国債発行法案)」(177閣法1号)、衆・経産委に付託されている「再生可能エネルギーの全量固定価格買い取り法案(177閣法51号)や、衆・予算委員会での「平成23年度第2次補正予算案(未提出)」などが議題となります。また、衆・厚労委での「10月1日以降の子ども手当に関する法案」(民自公政調会長が協議中)、「二重ローン対策法案」が議題となると思われます。
延長国会のカギとなるのは、やはり予算です。「2次補正(復旧テコ入れ補正)」は、おそらく7月下旬提出~8月上旬成立という流れになりそうな気配です。
ねじれ国会のなか、与野党および官邸の協議で、70日間延長に成功した7首脳、なかんずく岡田幹事長の功績はきわめて大きいものがあります。朝日新聞によると、官邸官僚が「歴代政権でも首相退陣をめぐるかけひきや混乱はあったが、ここまで表に出てしまうことはなかった」と苦笑した、ということで、「クリーンでオープンな民主党」という菅さん、岡田さん、枝野さんら非世襲グループによる「クリーンでオープンな民主党」路線が続くことになりました。なんとか、世襲グループに政権を奪い返されないよう、国民みんなで支えていきましょう。
〈会期延長に成功した岡田幹事長ら民主党7首脳が続投〉
各会派の延長の話し合いに失敗して、ハプニング的に閉会してしまった例は過去にあります。福田赳夫首相(自民党総裁)時代の第82回臨時国会は、会期末の11月25日に、(再)延長に失敗し、いろいろな法案が廃案や閉会中となりました。そこで、内閣改造のうえ、1週間後の12月3日に天皇陛下に召集詔書を公布していただき、12月7日から12月10日までの4日間の第83回国会を開きました。この国会では所信表明演説はヒラから図に、前国会で失敗した各法案(離職者対策諸法案、国鉄運賃法改正案、健康保険法など改正案、防衛2法案、国家公務員給与改定5法案)を処理しました。第82臨時国会の不手際については「各派間の話し合いが難航しているうちに時間切れが迫り、本会議を再開したが、法案の審議は一切行われないまま散会した。このため、(略)いずれも審査未了となるという波乱の幕切れとなった」と記されています(『議会制度百年史』の『国会史(下巻)』=衆議院・参議院編、大蔵省印刷局発行=の120ページ)。
このときとは違い、民主党幹事長の岡田克也さんがねばり強く各会派をとりまとめ、菅直人首相を説得することで会期延長に成功し、最終的には民主党7首脳(菅直人さん、岡田克也さん、枝野幸男さん、仙谷由人さん、輿石東・参院議員会長、安住淳さん、玄葉光一郎さん)がひきつづき政権の重荷の旗振り役を続投することになりました。会期延長により、6月~8月の間に、民主党代表選による政治空白が生まれる可能性はなくなりました。
明治憲法(大日本帝国憲法)ではその第42条で「帝国議会は3ヶ月をもって会期とす」として、「必要ある場合においては勅命をもって延長することあるべし」となっています。いったん、話が横にそれますが、明治憲法39条には「両議院(衆議院 or 貴族院)の一つにおいて否決したる法律案は同会期中において再び提出することを得ず」となっており、「一事不再議」が憲法で決まっていました。では、なぜ現行法制で憲法どころか国会法にも「一事不再議」がないかというと、現行憲法で初めて国会は予算を審議できることになったので、補正予算が「一事」になるのかどうかという問題があるのが最大の理由です。ですから、「一事不再議」は議会政治の大前提である「会期独立の原則」に基づき、「一つの会期における国会の意思決定は一つ」という考え方に基づくものです。ですから一事不再議は憲法を超越した憲政の常道であると私は考えています。つまり第177回国会として、「内閣を信任」した後に「内閣を不信任」したら、その間に何があったのか、プロセスが歴史のブラックボックスと化してしまいます。だから一事不再議は重要な原則なのです。このことについて、衆議院の職員を経て自由党など参院議員を務めた人が「一事不再議は審議の効率性のため」という解説をしていますが、それは信頼と慣例を積み重ねてできている議会政治の長年のルール、日本で言えば憲政の常道をあまりよくご存じないのではないかと感じざるを得ません。
閑話休題。
70日間の延長により、この6月~8月の間に民主党代表選が実施される可能性はなくなりました。ただし、会期がこれより早く終わる可能性は一つだけありますが、今回民主党7首脳が6月2日前後からの不信任案否決をめぐる大波に耐え、会期延長・現体制続投に成功した以上、菅首相の一存でそれ(解散)をするのは厳しく、解散はないと思われます。
〈延長された「正念場(性根場)国会」で試されるのは、岡田克也さん〉
第2次田中角栄内閣が総選挙の12日後から会期280日間の特別国会(第71回国会)を開いたことがあります。この例からすると、やはり2009年9月16日召集の第172特別国会を4日間ではなく、280日間くらいやって、政治主導確立法、国会法・内閣法・国家行政組織法・衆議院規則・参議院規則を一気に改正してしまった方が良かったと悔やまれます。つくづく、野党・民主党の政策ではなく、統治法の準備不足と、鳩山代表・小沢幹事長のロングスパンの展望を欠いた国会運営が残念でなりません。
昨年は第22回参院選を控えていたため、延長せず、請願などの継続審議ができないという残念な会期切れとなりましたが、民主党7首脳はなんとか土俵際で逃げ切りました。「3・11」以降の国会劇場は役者(政治家)の性根があらわれる正念場国会となりましたが、さらに延長国会となりました。歌舞伎十八番の内『勧進帳』では、義経を守る弁慶と富樫の「山伏問答」の後、再度富樫が登場してくる場面「弁慶の戦(いくさ)物語」があります。富樫に酒を勧められた弁慶が延年の舞を踊ることになります。義経が菅さん、富樫が自民党なら、弁慶は岡田さんということになります。岡田さんが延長国会の閉幕まで延年の舞を踊ることになるのか。これは正直、私も分からない。1月に「正念場」、3・11には「こういうときこそ人は見られている」と語った岡田さんですが、どうやら延長国会で性根をイチバン見られることになる主役は、岡田克也さんということになりそうです。
[写真]税の一部改正法の与野党修正協議をてがけた藤井裕久・首相補佐官(プレス民主からキャプチャーのうえ、トリミングさせていただきました)
【2011年6月22日(水) 参院本会議】
いよいよ会期末の朝となりました。しかも夏至です。第177通常国会は8月31日(水)までの70日間延長され、会期220日間となる見通しです。この間、菅直人首相は続投できる可能性が高まりました。また、世襲議員グループの「参院自民党」が提出をちらつかせていた「菅首相問責決議案」の提出は不発に終わったもようです。
参院本会議が午前10時に開会しました。「国税の一部改正法(閣法82号)」と「地方税の一部改正法(閣法83号)」が、与野党各党(日本共産党を除く)の賛成多数で、可決・成立しました。天皇陛下の御名御璽が入り、公布され、官報に載ります。
参院本会議の押しボタン式の投票では、
国税の一部改正法が「投票総数236、賛成230、反対6」
地方税の一部改正法が投票総数が「238、賛成232、反対6」
でした。各議員の投票行動(賛成、反対)は次のホームページから見ることができます→ http://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/vote/177/vote_ind.htm
なお、実際の議事日程は、藤末健三総務委員長、藤田幸久財政金融委員長の順番で行われました。
前日(21日)の審議と採決では、総務委員会で自民党の片山さつきさん、財金委員会で自民党の佐藤ゆかりさんが付帯決議を提出。両案とも、日本共産党が反対討論をしたうえで、各党の賛成多数で可決していました。
やれやれ、ホッとしました。
この法には、住宅購入時の登録免許税の軽減、中小企業の法人税率の軽減、雇用を促進するために従業員を増やした企業への税制上の優遇措置、NPOなど寄付金税制の拡充、航空機燃料税の引き下げ、証券軽減税率の2年間延長などが入っており、多くの項目では、国税だけでなく、地方税での措置も含まれているようです。
なお、私の認識では、相続税の基礎控除額の5000万円→3000万円の引き下げと税額の50%→55%への引き上げは見送られたと思います。それと国税通則法の廃止(抜本的見直し)も見送られ、国税通則法という法律は存続することになっていると考えます。この辺は、おそらく税理士さんでも対応できていない人がいると思いますので、直接税務署や国税庁の事務センターなどに問い合わせることをおすすめします。
これにより、6月30日までのつなぎ措置だった、国税と地方税の税制改正にめどがつきました。なおも、国税は閣法2号と地方税は閣法4号を内閣が修正し、議案として延長国会に残ります。しかし、歳入全体にしめる影響は、いまだに衆院委員会に残っている「特例公債法案(平成23年度の赤字国債を発行する法案)」(閣1)に比べれば軽微ですので、このまま、閣法82号と閣法83号のまま、平成23年度が進むことになりそうな気配を感じています。
この租税特別措置などのつなぎを踏まえて、6月30日までに、自民党も賛成できる項目を閣法2号、閣法4号から抜き出して法案をつくる修正協議は、民主党は首相補佐官の藤井裕久さん(昭和30年大蔵省入省)、自民党は元自治大臣の野田毅さん(昭和39年大蔵省入省)が担ったそうです。大蔵省の先輩・後輩で、国会議員および「自由党幹事長」としては野田さんが先輩になります。それと野田さんは、どうも「与党政治家らしさ」が強いように私には思え、こういう修正協議では国家国益を優先するタイプだと考えます。この辺は、岡田克也幹事長らの人選が良かったんだろう、と考えます。まあ、野田さんも、まさか未来予想図の「野田財務大臣」が新進党時代の1年生議員の野田佳彦さんとは思っていなかったでしょう。野田聖子さんというのは若干ケーカイしていたかもしれませんが、新進党解党後に、小沢一郎氏から離れていった当選5回生の佳彦さんが財務大臣、小沢氏についていった毅さんは当選13回生にして野党第1党で無役という悔しさを、修正協議にぶつけたのなら、報われたように思います。
このように、以前は、税制論議には、党人派の山中貞則さんなどがいましたが、最近では、せめて通産官僚(尾見孝次さん、町村信孝さん)がいるくらいで、ほとんど財務官僚(伊吹文明さん、津島雄二さんら)でないと取り扱えない状態になっています。「代表なくして課税無し」が議会政治の発祥ですが、最近の民主党議員は、税調で、特定業界の「免税継続」を訴えたり、税と社会保障の一体改革で「消費税引き上げに反対」するなどといった木を見て森を見ず、の議論ばかりで、ていねいに、税制を体系的に勉強している議員がいないように思えます。たいへん憂慮すべき事態です。
関連エントリー)衆院通過時のエントリー
ねじれ国会の難題1つ解決 6月30日つなぎ切れの税制改革法案が衆本を通過
なお、参院本会議では、大震災のための金融機能強化・金融機関再編特措法(閣法73号)、総合特区法案(閣法27号)も可決・成立しました。
この後、午後の衆院本会議で会期延長が決まります。
asahi.com(朝日新聞社):税制改正修正法成立 法人減税や所得・相続増税は先送り - 政治
2011年度税制改正修正法が、22日の参院本会議で賛成多数で可決、成立した。認定NPO法人に寄付した場合の優遇税制拡大や、従業員を増やした企業を減税する雇用促進税制などを盛り込んだ。法人税減税や所得・相続増税など、当初の改正案の根幹部分は今後、改めて与野党で協議する。
税制改正法案は、毎年3月末までに成立させるのが慣例。今年は野党の反対で成立が遅れていたが、民主党と自民、公明両党が今月8日に一部項目の修正で合意。期限が切れて増税になると企業や国民生活に影響が大きい租税特別措置を3カ月延長する「つなぎ法」の期限が6月末に迫ったため、与野党の合意項目だけ切り離して成立させた。
修正法には、離島航路の航空機燃料税や不動産売買契約書につける印紙税の軽減など6月末で切れる租税特別措置の12年3月末までの延長や、低額年金所得者の申告不要制度の創設、11年末に期限が切れる証券優遇税制の2年延長なども盛り込まれた。