【元日経新聞記者】宮崎信行の国会傍聴記

政治ジャーナリスト宮崎信行、50代はドンドン書いていきます。

イラク戦争終結 2003年の開戦当日に「大量兵器が存在しない可能性」を議事録に残した政治家は誰か?

2011年12月15日 07時27分42秒 | 岡田克也、旅の途中


米大統領 イラク戦争終結宣言 NHKニュース

9年近くに及んだイラク戦争を巡って、アメリカのオバマ大統領は、日本時間の15日未明に行った演説で、「きょうをもってわれわれは戦争を終結する」と述べ、イラク戦争の終結を宣言しました。

オバマ大統領は14日、南部ノースカロライナ州の陸軍基地で、イラクからの帰還兵らを前にイラク戦争を巡る演説を行いました。この中で、オバマ大統領は、兵士たちに「国に戻ってきたことを歓迎する。お帰りなさい」と繰り返し語りかけ、みずからが約束した、アメリカ兵のイラクからの撤退が予定どおり年内に完了するとの見通しを示しました。そのうえで、「アメリカ軍の歴史の中で、非常に大きな出来事が終わる。きょうをもって、われわれは戦争を終結する」と述べ、イラク戦争の終結を宣言しました。また、オバマ大統領は、「イラクをみずからの代表を選挙で決めることができる、自立し安定した国にすることができた」と述べ、戦争の成果を強調しました。しかし、イラク戦争では合わせて150万人のアメリカ兵が現地に派遣され、このうちのおよそ4500人が死亡しました。オバマ大統領は、「戦争にはさまざまな困難があった。国内でも賛否両論があった」と述べ、みずからが反対してきたイラク戦争によって、アメリカ自身にも多くの犠牲がもたらされたことを指摘しました。

 ◇

 イラク戦争が終結しました。今月中に撤退が完了します。

 サダム・フセイン大統領率いるイラクが大量破壊兵器を持っており、その廃棄を求めた「国連安保理決議1441」に違反しているとして、ジョージ・ブッシュ大統領が2003年3月20日(木)=日本時間・米時間とも=に始めたのが「イラク戦争」です。

 結果として、大量破壊兵器は存在しなかったのですが、戦争は続きました。サダムをとらえ、裁くことには成功しました。ただ、この戦争は、サダムが石油取引にユーロを使い、国際基軸通貨としての「ドル」を壊そうとしたことへの懲罰だったというのがホントウの狙いだったようです。この8月、ニクソン・ショックから40年経ちました。1ドルが360円ないし220円から、77円前後まで円高ドル安にふれましたが、それでもドルが国際基軸通貨であり続けるのは、さすがアメリカです。しかし、それを維持するために、アメリカの外で、1991年の湾岸戦争、2003年のイラク戦争をしなければならなかったということを認識する必要があると思います。

 ところで、この2003年3月20日の衆院本会議で「イラクに大量破壊兵器が存在しない可能性」を指摘していた政治家がいることをご存知でしょうか。これは国会議事録がありますから、ハッキリ残っています。わが国は世界でも早く日付変更線を越えて、新しい朝を迎える国です。日出づる国です。世界観をしっかり持った政治家がいれば、日本は生き残れます。

 さて、もったいぶることもないのですが、2003年3月20日、この極東の島国で、その時点で野党生活が連続9年を越えていながら「大量破壊兵器が存在しない可能性」を指摘した議員、それは岡田克也(Katsuya Okada 1953-)です。当時野党第1党の民主党、この時点で政権を担った経験は一日もない政党の幹事長でした。

 岡田さんは質問演説を「民主党の岡田克也です。本日昼に始まった米国などによるイラク攻撃に関し、我々の見解を述べつつ、小泉総理に質問します。(拍手)とうとう戦争が始まりました。この戦争によって、多くの犠牲が生まれ、罪のない命が奪われることは確実です。何とかこの戦争を回避し、イラク問題の平和的な解決ができなかったのか、本当に残念に思い、同時に、私自身、無力感を感じています。私だけではなくて、この議場の皆さんの気持ちも同じだと思います。一日も早く、戦争が終わり、平和が訪れることを強く願いつつ、質問します」と切り出しました。

 そして、岡田さんは「小泉総理は、イラクの大量破壊兵器が確実に存在し、それが今後、確実にテロリストの手に渡るという確かな証拠をお持ちなのでしょうか」と指摘しています(岡田指摘)。

 これに対して、小泉純一郎首相(自民党総裁)は、「大量破壊兵器の脅威というのは、決して人ごとではありません。武力行使なしには大量破壊兵器が廃棄され得ない状況のもとでは、私は、同盟国として今般のアメリカの行動を支持することが国家利益にかなう」と答弁しています。

 おそらく世界的にも、大量破壊兵器が開戦当日から存在しない可能性を指摘し、それがその国の議会の議事録に残っているという政治家は極めて少ないだろうと考えます。

国会会議録データベースから引用はじめ]

第156回国会 本会議 第16号
平成十五年三月二十日(木曜日)
    ―――――――――――――
○本日の会議に付した案件
 小泉内閣総理大臣のイラクに対する武力行使後の事態への対応についての報告
(略)
 小泉内閣総理大臣のイラクに対する武力行使後の事態への対応についての報告に対する質疑

    午後三時三十三分開議
○議長(綿貫民輔君) これより会議を開きます。
     ――――◇―――――
 内閣総理大臣の発言(イラクに対する武力行使後の事態への対応についての報告)
○議長(綿貫民輔君) 内閣総理大臣から、イラクに対する武力行使後の事態への対応についての報告について発言を求められております。これを許します。内閣総理大臣小泉純一郎君。

    〔内閣総理大臣小泉純一郎君登壇〕

○内閣総理大臣(小泉純一郎君) イラク問題についての政府の基本的な考え方を明らかにし、皆様の御理解と御協力を得たいと思います。(拍手)
 数時間前、米国を初めとする国々は、イラクが国際社会の平和と安全に与えている脅威を取り除くための最後の手段として、イラクに対する武力行使を開始しました。
 イラクは、昨年十一月に全会一致で採択された国連安保理決議一四四一によって、国際社会から、大量破壊兵器を廃棄するための最後の機会を与えられました。私は、イラクへの総理特使の派遣を含め、イラクが直ちに国連査察団に対して無条件かつ積極的に協力することによって平和への道を選ぶよう、繰り返し呼びかけてきました。国際社会も、一致して、イラクの全面的協力を強く求めてきました。平和へのかぎはイラクだけが握っているのが明らかだからです。しかし、大変残念なことに、イラクは、国際社会の真摯な努力にこたえず、みずから平和への道を閉ざしてきました。
 サダム・フセインは、これまで、隣国に対しても、また、驚くべきことに、イラク国民自身に対しても、違法で残酷な化学兵器を使用したことがあります。イラクは、今から十三年前、突然、クウェートを侵略し、併合を宣言しました。国際社会は、イラクの国際法を無視した蛮行を厳しく糾弾し、多数の国々の軍事力によってこれをただしました。停戦に当たって、イラクは、地域の平和と安定を脅かす大量破壊兵器を廃棄することを約束しました。この約束は完全に実行され、イラクが大量破壊兵器をすべて廃棄したことが確認されなければなりません。それができて初めて、この地域の平和と安全の確保が可能となります。しかし、イラクは、これに応じようとしませんでした。
 大量破壊兵器は、大量かつ無差別に市民を殺害し、傷つける恐ろしい兵器です。私たちは、このような非人道的な兵器が自国民を圧政のもとに置く独裁者の手中にあることを、真剣に考えなければなりません。(拍手)特に、一昨年九月十一日の同時多発テロ以来、国際社会は、テロリストが核物質や生物兵器、化学兵器を入手した場合の恐怖を強く認識するようになりました。今日の国際社会において、大量破壊兵器の保有の有無は、うやむやに放置しておけるような問題ではないのです。我が国を取り巻くアジア地域も、決して、この問題と無縁ではありません。

 イラクは、国際社会に対して、かつて保有し使用した大量破壊兵器を廃棄したのかどうかを十分に説明しませんでした。イラクは、VXガスやマスタードガスのような化学兵器、炭疽菌やボツリヌス菌のような生物兵器など、何億人もの人々を殺傷できる量を保有していたと言われています。しかし、イラクは、このような恐ろしい兵器の行方について必要な説明を行わず、国際社会に対して誠意ある回答を示さなかったのです。
 国際社会は、十七本にも上る国連安保理決議を採択し、一致してイラクに対する説得に当たってきました。しかし、イラクは、十二年間にもわたって国連安保理決議への違反を続けてきました。これは、イラクによる国連に対する挑戦であり、国連の権威の侮辱です。このような状況のもとで、私は、安保理が一致団結し、国際社会の平和と安全に対して責任を果たすべきことを、ブッシュ米国大統領やシラク・フランス大統領を含む関係国首脳に対して、直接訴えてきました。
 最終的に安保理での意見の一致が見られず、安保理が一致団結できなかったことは残念です。しかしながら、何度も何度も平和的解決のための機会を与えられたにもかかわらず、イラクがその機会を一切生かそうとせず、安保理決議違反を繰り返してきたことは、決して見逃されてはなりません。(拍手)問題の解決をいつまでも先延ばしにすることは許されないのです。イラクの対応を根本的に変えるための方策も見通しも全く見出せない以上、武力行使に至ったことはやむを得ないことだと考えます。(拍手)

 今、米国は、このような大量破壊兵器を廃棄する国際的な動きの先頭に立っています。米国は、我が国のかけがえのない同盟国であり、我が国の平和と安全を守るための貴重な抑止力を提供しています。我が国を取り巻くアジア地域の平和と安全の確保にとっても、米国の役割は不可欠です。そのような米国が国際社会の大義に従って大きな犠牲を払おうとしているとき、我が国が可能な限りの支援を行うことは、我が国の責務であり、当然のことであると考えます。(拍手)
 いかなる場合においても、武力行使を支持することは容易な決断ではありません。戦闘なしに大量破壊兵器が廃棄されることが最善の策であることは、言うまでもありません。しかし、それが不可能な状況のもとでは、我が国としては、国際社会の責任ある一員として、このたびの米国を初めとする国々による行動を支持することが我が国の国家利益にかなうとの結論に達しました。(拍手)
 今般の事態に際し、政府は、直ちに安全保障会議を開催し、緊急性を有する措置に関する対処方針を速やかに決定するとともに、その後の臨時閣議において、事態の推移を見守りつつ検討すべき措置に関する対処方針もあわせて決定いたしました。同時に、内閣にイラク問題対策本部を設置し、この対処方針に基づき、政府が一体となって総合的かつ効果的な緊急対策を強力に推進することといたしました。
 政府は、イラクとその周辺における邦人の安全確保のために万全の措置を講じてまいります。また、国内重要施設、在日米軍施設、各国公館の警戒警備等、国内における警戒態勢の強化・徹底を図ります。さらに、我が国関係船舶の航行の安全を確保するため、所要の措置を講じてまいります。

 政府は、原油の安定供給を初め、世界及び我が国の経済システムに混乱が生じないよう、関係国と協調し、状況の変化に対応して適切な措置を講じてまいります。このため、原油等物資の市場動向や供給状態、金融・証券市場の動向を監視します。また、関係諸国等と連携しつつ、必要に応じて、原油の安定供給のための適切な措置を実施します。さらに、外国為替市場の安定化、金融システムの安定の確保、国内の流動性の確保に努めます。

 我が国は、このたびの武力行使によって被災民が発生するのに応じて、国際機関やNGOを通じた支援や、周辺国に対する国際平和協力法に基づく自衛隊機等による人道物資の輸送等の支援を含め、緊急人道支援を行います。
 我が国は、イラク及びその周辺地域の平和と安定の回復が我が国にとっても重要であるとの認識に立って、このたびの事態に対して積極的な対応を行ってまいります。
 我が国は、今後の事態の推移を見守りつつ、次のような措置を検討してまいります。
 第一に、このたびの武力行使によって経済的影響を受けるイラク周辺地域に対して、影響を緩和するための支援を行います。第二に、イラクにおける大量破壊兵器等の処理、海上における遺棄機雷の処理、復旧復興支援や人道支援等のための所要の措置を講じてまいります。
 また、これらの措置とは別に、我が国は、アフガニスタン等におけるテロとの闘いを継続する諸外国の軍隊等に対して、テロ対策特措法に基づく支援を継続・強化します。
 私は、戦闘が一刻も早く、しかも、国際社会に対するイラクの脅威を取り除く形で終結することを心から望んでいます。同時に、イラクが一日も早く再建され、人々が自由で豊かな社会の中で暮らしていけるよう、イラクの復旧復興のため我が国ができる限りの支援を行っていく考えであることを、ここで明らかにしておきたいと思います。
 中東地域の平和と安定は、我が国自身の平和と繁栄に直結する重大な問題です。我が国は、イラク及びその周辺地域の平和と安定の回復に寄与することに加え、中東和平問題への真剣な取り組みを続けていきます。また、悠久の歴史と文明を有するイスラム世界との対話を継続・強化し、幅広い交流と相互理解を進めていきたいと考えます。
 私は、以上のような政府の考え方について、国民の皆様の御理解と御協力を心からお願いいたします。(拍手)

○議長(綿貫民輔君) ただいまの発言に対する質疑は後刻行います。

(略)

○議長(綿貫民輔君) 岡田克也君。

    〔岡田克也君登壇〕

○岡田克也君 民主党の岡田克也です。
 本日昼に始まった米国などによるイラク攻撃に関し、我々の見解を述べつつ、小泉総理に質問します。(拍手)
 とうとう戦争が始まりました。この戦争によって、多くの犠牲が生まれ、罪のない命が奪われることは確実です。何とかこの戦争を回避し、イラク問題の平和的な解決ができなかったのか、本当に残念に思い、同時に、私自身、無力感を感じています。私だけではなくて、この議場の皆さんの気持ちも同じだと思います。一日も早く、戦争が終わり、平和が訪れることを強く願いつつ、質問します。(拍手)

 まず、民主党の基本的な考え方を述べます。
 民主党は、イラクがこれまで累次の国連決議を守らず、大量破壊兵器に関する疑惑をみずから払拭してこなかったことを、強く批判してきました。同時に、査察を強化し継続することで大量破壊兵器の完全廃棄を行うことは可能であるとし、そうすべきと主張してきました。しかし、今回、ブッシュ政権が国連安保理での問題解決を放棄し、単独主義的な武力行使を開始したことは、国連憲章など国際法の原則に違反する行動であり、これを容認することはできません。(拍手)
 武力行使の中止を強く求めます。小泉総理がブッシュ政権の武力行使に支持表明したことは誤りであり、その撤回を強く求めます。(拍手)

 小泉総理、まず最初に率直にお聞きします。
 あなたは、この数カ月、イラク問題は国際社会とイラクの間の問題であるべきと主張されてきました。しかし、あなたが一致してイラク問題に対応すべきと主張した国際社会は、米国の武力行使をめぐり厳しく賛否が分かれ対立する最悪の状況になっています。あなたは失敗したのです。
 また、小泉総理は、かねがね、日米同盟と国際協調の両立を目指すことが重要だと言われてきました。しかし、小泉総理は、国際協調をあきらめ、日米同盟を選択しました。
 小泉総理、あなたが目指してきた外交目標は、いずれも達成されず、大失敗に終わったのです。総理大臣として、外交に失敗したことについて、率直に反省し、国民に対し謝罪すべきだと考えますが、いかがですか。答弁を求めます。(拍手)

 小泉総理、あなたは、外交に失敗しただけではありません。あなたは、イラク問題について、先日のブッシュ大統領のイラクへの最後通告がなされるまでの間、国民に対し、説明責任を全く果たすことがありませんでした。
 さきの党首会談で、米国の新たな国連決議なき武力行使を認めるのかと問われて、そのときに考える、その場の雰囲気でなどと述べたのは、その典型であります。国連安保理の非常任理事国に対しては、経済協力などを背景に米国支持を求めながら、国内では全く説明しない。そこにあるのは、小泉総理の国民無視の姿勢であり、国民の共感を得ながら外交を進めるという姿勢は全くありません。
 英国のブレア首相が国民に対して理解を求めようと必死になって説明する姿勢には、私も同じ政治家として共感を持ちます。総理は昨日の党首討論でもいろいろ言いわけをしましたが、ブレア首相との違いは余りにも大きい。国民への説明責任を果たしてこなかったことを謝罪すべきです。答弁を求めます。(拍手)

 小泉総理、あなたは、米国ブッシュ政権の決定したイラク攻撃を支持すると表明されました。小泉総理は、その理由として三点挙げています。
 第一に、国連決議一四四一号を初めとする一連の国連決議が武力行使の根拠となっており、国連憲章違反との批判は当たらないこと。第二に、大量破壊兵器が独裁者やテロリストの手に渡った場合、何十万人の生命が危機に直面すること。第三に、日米関係の信頼性を損なうことは国益に反する、その国益の中には北朝鮮問題も含まれる。
 以上の三点です。いずれも説得力に乏しいと言わざるを得ません。(拍手)

 以下、それぞれについて質問するとともに、米国のイラク攻撃支持の撤回を求める我々の要求に対して、受け入れる意思があるかどうか、総理の見解を伺います。

 まず、第一の問題についてお聞きします。
 総理は、いつから、国連決議一四四一号が武力行使を容認しているとの考えに変わったのでしょうか。
 総理、私は、二月三日のこの本会議場での代表質問で、フランス、ドイツ、ロシアなどは、国連決議一四四一号が武力行使を容認するものではなく、イラク攻撃を行う場合は新たな決議が必要との立場に立っている、日本も同じ立場に立つべきだと主張しました。総理に、再質問、再々質問、三度にわたり質問しました。総理は、当初は逃げの答弁に終始しましたが、三度目の私の質問に対して、一四四一号の決議を守らなかった場合に自動的に武力行使を容認しているものではない、自動的に武力行使を容認しているものではないと答弁されました。このときの答弁は誤りだったのでしょうか。いつ、なぜ、考え方を変えられたのでしょうか。答弁を求めます。
 安保理の理事国の多くやアナン国連事務総長は、新たな国連決議が必要であるとしています。総理は、新たな国連決議は必要ないと言われますが、そのことを最終的に決めるのは、あなたではありません。国連安保理であり、あなたが勝手に決めることはできないのです。今回の武力攻撃に正当性がないことは明らかです。もし、総理に異論があれば、明快に述べていただきたい。答弁を求めます。(拍手)

 次に、第二の点についてお聞きします。
 大量破壊兵器がテロリストや独裁者の手に渡ることは、確かに大変な問題です。しかし、だからこそ、イラクに対して国連の査察団が査察を行ってきたのです。小泉総理は、イラクの大量破壊兵器が確実に存在し、それが今後、確実にテロリストの手に渡るという確かな証拠をお持ちなのでしょうか。査察団が証明できていないことを、いかなる根拠で言われているのでしょうか。また、仮に確たる根拠があったとしても、そのことが直ちに国連無視の武力行使を正当化するものではないはずです。(拍手)
 先ほど、問題の先送りを許すべきでないと総理は述べられましたが、なぜ、査察委員会のブリクス委員長が言うように、数カ月の査察の継続まで待てなかったのでしょうか。小泉総理の論理には飛躍があり、粗雑過ぎます。反論があれば述べてください。

 第三に、日米関係の信頼性を損なうことは国益に反すると言われました。
 確かに、日米同盟関係の信頼性を損なうことがあってはなりません。特に、九・一一テロ事件以降の米国国民の意識の変化を十分に踏まえることは大切です。注意深く、慎重に行動しなければなりません。しかし、だからといって、国連憲章に反し、大義なき戦争を始めていいはずはありません。
 そして、日米間のきずなは、そんなにも弱いものなんでしょうか。同盟国であればこそ、率直に語り、ブッシュ大統領を説得すべきだったのではありませんか。そして、国連安保理の手続を無視し、国連の権威と機能を弱めることこそ、国益に反するのではないでしょうか。答弁を求めます。(拍手)
 北朝鮮問題との関係についても、今回、米国の単独武力行使を認めたことは、北朝鮮問題の解決をより困難にしたと思います。北朝鮮問題の解決は、中国やロシアとの協力が欠かせません。国連安保理の取り組みも重要です。すなわち、重要なのは、国際協調の中で北朝鮮の問題を解決するという姿勢です。ブッシュ政権とこれらの国々や安保理との間に重大な亀裂が入った状況で、いかにして北朝鮮の問題を解決するのでしょうか。答弁を求めます。(拍手)

 最後に、極めて重要なことを小泉総理にお聞きします。
 ブッシュ政権がイラクへの武力行使を正当化する最大の根拠は、国連決議ではありません。昨年九月に発表されたブッシュ・ドクトリンにあります。その中で、従来の自衛権の考え方を大きく変え、単独行動、先制攻撃を認めています。先日のブッシュ演説でも、米国は自国の安全を守るために武力行使の権限を持つ、行動しないことによるリスクの方がはるかに大きいことから我々は今行動するのだ、敵が先に攻撃した後に反撃するのは自己防衛ではなく自殺行為だとまで述べています。
 このようなブッシュ大統領の、従来の自衛権では説明できない先制攻撃論を、小泉総理は認めるのですか、認めないのですか。答弁を求めます。(拍手)
 また、このような先制攻撃を認めることは、自衛権の行使と国連安保理の決議がある場合を除いては武力行使は認めないとする国連憲章の考えを大きく変え、今までの平和維持のための国際的な仕組みの根本的な見直しにつながります。唯一の超大国アメリカが国連を無視し、単独行動、先制攻撃を行うとすれば、国連の権威は失われ、世界は極めて不安定になります。米国といえども国家である以上、自国の国益を基準にして武力行使することになりかねません。
 ブッシュ大統領は正義を掲げてみずからの戦争を正当化しようとしていますが、国際社会において、正義は一つでは必ずしもありません。だからこそ、国連という協議の場が設けられているのです。(拍手)
 私は、以上の点についても小泉総理と認識を共有していると期待しておりますが、いかがでしょうか。二月三日のこの場での代表質問で、この点、小泉総理に三度にわたり質問しましたが、全くお答えはありませんでした。責任ある答弁を今度こそ求めます。(拍手)
 小泉総理、あなたは、同盟国の一員として、ブッシュ大統領と、このブッシュ・ドクトリンについて、昨年九月以降、意見交換をしたことがありますか。国連を軽視する米国の姿勢は、将来的には、日米同盟の本質をも大きく変えかねない重大な問題であります。そんな危機感を持って、ブッシュ大統領に、単独行動・先制攻撃論の問題点を指摘し、自重を求めるべきだと考えますが、いかがでしょうか。答弁を求めます。
 小泉総理、我々は今、二十一世紀最初の大きな戦争の始まりに直面しています。戦争は多くの罪なき命を奪います。そして、国連安保理の決議がないままの大義なき戦争が今後の世界の平和に及ぼす影響ははかり知れません。今日の事態を招いたことについて、政治家として、そして一人の人間として、この議場にいる我々一人一人が大いなる反省を求められていると思います。とりわけ、日本国総理大臣の職にある者として、小泉総理、あなたの責任はとてつもなく重い。しかし、私には、あなたにその認識があるとは到底思えない。そのことを最後に申し上げて、私の質問を終わります。(拍手)

    〔内閣総理大臣小泉純一郎君登壇〕

○内閣総理大臣(小泉純一郎君) 岡田議員にお答えいたします。

 日米同盟と国際協調の両立及び国民への説明責任についてのお尋ねでございます。
 国際社会も、一致して、イラクの全面的協力を強く求めてきました。私も求めてまいりました。残念なことに、イラクは、国際社会の真摯な努力にこたえず、みずから平和の道を閉ざしてきました。
 イラクの大量破壊兵器を破棄する国際的な動きの先頭に立っている米国に対し、同盟国として可能な限りの支援を行うことは当然だと思っております。
 また、日米同盟によって、日本は日本の安全を確保してまいりました。これからも、この日米同盟関係、信頼性を維持していきながら、日本国民の安全を図っていかなければならないと思っております。
 同時に、安全が確保されて初めて、さまざまな政策が推進できるわけであります。国際協調を図りながら日本の発展を図っていく。日米同盟と国際協調を両立させる。今後も、この両立を図っていくよう努力してまいります。(拍手)
 また、イラク問題に対する政府の考え方について、説明責任についてのお尋ねでございますが、私は、その都度、政府として説明をしてまいりました。しかしながら、自分の考えと合致していないと答えになっていない、見解が違うと説明していない、こう言われるんじゃ、幾ら説明してもお気に入りの説明責任を果たしたとは言えない。
 政府には政府の立場があるんです。私は、今までも、はっきりと説明しております。今後も、国民の理解と協力が得られるように、さまざまな機会を利用してはっきりと説明して、御理解、御協力を得たいと思います。(拍手)

 米国のイラク攻撃支持の撤回についてお尋ねでございます。
 武力行使を支持することは容易な決断ではありません。しかし、大量破壊兵器の脅威は、決して、我が国を取り巻くアジア地域も無縁ではありません。武力行使なしに大量破壊兵器が廃棄され得ない状況のもとでは、今般の行動を支持することは、私は、国家利益にかなうと考えており、撤回する意思はありません。(拍手)

 イラクへの武力行使に関する法的根拠についてでございます。
 岡田さんは、国連憲章違反だと言っていますが、私は、そう思っていないのです。国連憲章に合致する。
 その理由は、決議一四四一自体に武力行使を容認した規定がなく、同決議に従って安保理の審議が行われたことは、これまで繰り返し述べてきているとおりであります。
 我が国としては、査察官の累次の報告等で明らかなとおり、イラクが決議一四四一で履行を求められている武装解除等の義務を履行していないことから、さらなる重大な違反が生じていると言わざるを得ず、停戦条件を定めた決議六八七の重大な違反が生じていることから、決議六七八に基づき武力行使が正当化されると考えており、アメリカ、イギリスも同様の解釈をとっております。
 イラクでの査察の継続が認められなかった理由に関するお尋ねでございます。
 イラクが最近になって査察に小出しに協力しているのは、米国等の強力な軍事的圧力があってこそであります。イラクの姿勢が根本的に改められない限り、査察は有効たり得ないと思います。我が国を含む国際社会による懸命な努力も尽くされ、イラクの対応を根本的に変えるための見通しが全く見出せない状況のもとで、武力行使に至ったことはやむを得ないことだと思います。
 私は、ブッシュ大統領にも、また、シラク大統領にも、他の首脳にも、できるだけ平和的解決が望ましいということを何回も繰り返し訴えてまいりましたが、このような段階になって武力行使に至ったことは、私も残念だと思いますが、これはやむを得ないことだと思います。
 日米関係と我が国の国益についてでございます。

 我が国は、イラク問題につきまして、アメリカと率直な対話を行ってまいりました。武力行使を支持するということについても、日本国民の多くの方々が反対していることも私は承知しております。しかし、大量破壊兵器の脅威というのは、決して人ごとではありません。武力行使なしには大量破壊兵器が廃棄され得ない状況のもとでは、私は、同盟国として今般のアメリカの行動を支持することが国家利益にかなうと考えまして、これからも、日米、緊密な連携のもとに国際協調を図っていくつもりでございます。

 北朝鮮問題についてでございます。
 核問題を初めとする北朝鮮に関する諸問題を平和的に解決することについては、アメリカや韓国、中国、ロシアを含む国際社会の中で、意見が一致しております。政府としては、今後とも、日米韓三カ国の緊密な連携を維持し、また、中国及びロシアを初めとする他の関係国や関係国際機関とも協力していく考えであります。

 アメリカのいわゆる先制行動についてのお尋ねでございます。
 我が国として他国の国際法の解釈について有権的な評価をする立場にはありませんが、いずれにせよ、アメリカは国際法上の権利及び義務に合致して行動するものと考えます。
 なお、米国の国家安全保障戦略には、米国が脅威に対して先制的に対処するために必ず武力を行使するとしているわけではなく、先制を侵略のための口実としてはならない旨が明記されています。また、国家安全保障戦略は、国防政策を中心に広範な安保政策の基本的な考え方を述べたものでありますが、政府としては、特に、米国がテロや大量破壊兵器の拡散といった冷戦後の新たな脅威に対して断固たる姿勢で臨み、国際社会と連携しつつ強力なリーダーシップを発揮するという決意を同戦略において示している点を評価しております。
 国連という協議の場の必要性についてでございます。

 御指摘のとおり、二十一世紀の国際社会が直面している諸課題への取り組みに当たり、唯一の普遍的、包括的な国際機関である国連は各国の協議の場としても重要な役割を果たしていると私も考えております。今回の武力の行使は、関連安保理決議に基づくものであり、国連憲章の規定に合致していると考えております。(拍手)

[引用おわり]

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