【元日経新聞記者】宮崎信行の国会傍聴記

政治ジャーナリスト宮崎信行、50代はドンドン書いていきます。

玄葉光一郎外相(47)の天命。

2011年12月22日 22時47分59秒 | 人物

 玄葉光一郎外相(47)が「天命」としか言いようがない大きな歴史のうねりの中にいます。まあいろいろとタイヘンですが、玄葉さんにとっては、ここを乗り切るか、政治家としてつぶれるかのいずれしかない。だったら、どんなに道が狭くとも、前に進むしかありません。



 カンタンに玄葉外相のこの1ヶ月の流れを見てみましょう。

 ①在沖縄米軍の軍属が帰宅中(公務内と認定)に起こしたひき逃げ事件で、日米地位協定の第17条(刑事裁判権)の規定による、第1次裁判権(起訴を含む)をアメリカから我が国が持つ運用面での改善に成功。

 ②ところが、直後に出先機関の長(沖縄防衛局長)が沖縄の心を傷つけるというよりも、むしろ心の原点の不理解を証明する暴言を吐き、改善ムードがいっぺんでおじゃんに。

 ③日米地位協定で、「飲酒運転による帰宅は公務と認めない」、すなわちその際の第1次裁判権を恒常的に我が国が持つという、運用改善に成功。

 ④アメリカ連邦議会の上院・下院が沖縄海兵隊のグアム移転の今会計年度の予算を削減。少なくとも1年前後はロードマップが止まる。

 ⑤野田佳彦首相とともに京都で李明博・韓国大統領を歓迎し、ワシントンへ向かう。

 ⑥この時点で、金正日総書記が死亡。中国は情報を把握していたようだが、韓国は把握していなかったもよう(大統領が来日していた)。

 ⑥日韓首脳会談で、残り任期1年の韓国大統領が野田佳彦首相の足もとをみて、解決済みの「日本軍に強制連行された従軍慰安婦」について金銭面での“補償”を要求。

 ⑦玄葉外相が就任後初めてワシントンに到着。

 ⑧東アジアの外相として初めて、米国務長官とポスト金正日について、情報交換。中国、韓国外相と電話会談も。

 ⑨帰国し、総理に報告。

 だいたいこういう流れになるかと思います。

[参考]

金正日総書記が死去、「心筋梗塞」 金正恩氏が後継へ  :日本経済新聞
 【ソウル=島谷英明】北朝鮮メディアは19日正午、一斉に「特別放送」を流し、朝鮮労働党の金正日総書記(国防委員長)が17日死去したと伝えた。69歳だった。(中略)北朝鮮メディアによると、金正日氏は17日午前8時半、現地視察の列車の中で死去した。死因は心筋梗塞で、葬儀は12月28日に平壌で開かれる。金正日氏は一時は脳卒中にかかったほか、心臓病や糖尿病も患っていた。朝鮮中央テレビのアナウンサーが読み上げた訃告は「今日わが革命の陣頭には、わが党と軍隊と人民の卓越した指導者である金正恩同志が立っている」とし、三男の正恩(ジョンウン)党中央軍事委員会副委員長(28)が後継者であることを強く訴えた。(後略)

外務省: 玄葉外務大臣の米国訪問

[写真]ワシントン初訪問で、クリントン米国務長官と記者会見する玄葉光一郎外相、2011年12月19日(現地時刻)、
外務省ホームページから。



 2011年12月19日(月)正午(日本・ソウル・平壌とも)、北朝鮮メディアは、同国の金正日(キム・ジョンイル)国防委員長(朝鮮労働党総書記)が、17日(土)に死去していたことを発表しました。この瞬間から、東アジア(極東)情勢は瀬戸際外交の緊張状態に入りました。

 これに先立つ、17日(土)と18日(日)に韓国大統領の李明博(イ・ミョンバク)さんが来日。17日に京都で歓迎宴をし、18日の首相の野田佳彦さんと李大統領が日韓首脳会談に臨みました。

 ここからは当ブログの私見です。1965年6月22日、東京で両国が日韓基本関係条約(日韓基本条約)と同時に署名した、日韓請求権協定の第2条の1は「両締約国は(略)その国民の財産、権利および利益ならびに(略)請求権に関する問題が」サンフランシスコ平和条約「に規定されたものを含めて、完全かつ最終的に解決されたこととなることを確認する」としています。それにもかかわらず、李大統領は突然、「日本軍に強制連行された従軍慰安婦」という歴史的に存在しない人物に対する金銭的な補償を要求するという、かけひきや韓国内での突き上げがあるにしても、非礼窮まる言動をしました。日韓友好の汚点となりかねない蛮行であり、どのような事情であれ、李大統領の発言は、私は絶対に許せません。

 ところが、この翌日19日(月)の金正日総書記が死亡していたことが発表されました。なので、“補償”の話は立ち消えになると見通されます。私は野田首相はついていた。そして、韓国大統領は日本にいたという絶対的な証拠から、インテリジェンス(機密重要情報の収集)能力が不足していたことは事実。そして、日本でも歪曲した歴史による友好国の足もとを見た外交による、「天の戒め」だと、私は理解しています。韓国は極めてキリスト教徒(カトリック系)が多く、李さんの信仰は知りませんが、いずれにしろ、天の戒めです。

 閑話休題。

 17日の歓迎宴に参加して、外相就任後初めてのワシントン訪問に向かった玄葉さん。結果として、東アジアの外相で初めて、アメリカの国務長官であるオバマ政権のヒラリー・クリントン国務長官(民主党)と朝鮮半島情勢について情報交換することができました。玄葉さんはワシントンから、中国や韓国の外相とも電話会談したようです。

 玄葉さんの2011年、平成23年。

 東日本大震災、東京電力福島第一原子力発電所事故。ハワイでのAPECを前にしたTPP交渉参加への議論での、山田正彦さんやJA全農などの抵抗。そしてポスト金正日体制の始まり。まさにいろいろなことがありすぎた一年でした。

 玄葉さんは、第146代外相です。わが国初のミッションスクール(キリスト教)系大学を卒業した外相です。聖心女子大学卒業の緒方貞子・元上智大学教授が国連難民高等弁務官(UNHCR)になったのは1991年、20年前のことです。第一の開国の果実であるミッションスクール出身の人材を、これまで国が生かせていなかったことを如実に感じます。例えば誰?と聞いても、たいてい、細川護煕さん(上智大学)ぐらいの名前しか上がりません。横浜開港から152年、名もなき人材がいかされなかったのだと、私は認識しています。

 同志社で英語を学び、東京帝国大学法学部を出て、外相を務めたのが内田康哉(うちだ・こうや)です。大正デモクラシーの帝国議会でも答弁した彼は、明治・大正・昭和にかけて通算7年5ヶ月にわたり外相を務めた在任最長記録保持者です。また、首相代理も2度やっていますが、めでたい話ではありません。1度目は岩手県出身の原敬首相が東京駅で暗殺されたため、2度目は加藤友三郎首相が急死したためです。内田外相の最初の就任は、日露戦争勝利の6年後。関東大震災、ニューヨーク発の世界恐慌(The Clash)による日本経済の弱まりと、松岡洋右による国際連盟脱退などのブロック経済化への長期的見通しの誤りから、内政面で軍が影響力を増していくなか、日本を守ろうと、外国で懸命に取り組みました。しかし、政界再編に明け暮れる政党人と軍官僚による政治への進出のなか力尽き、2・26事件で岡田啓介内閣が倒れた10日後、軍靴の足音の高まりを耳にしながら、亡くなりました。

 ジリ貧がドカ貧になった東日本大震災。ニューヨーク発のリーマンショック。ブロック経済化(TPP)とわが国はそのころと似たような環境にあります。しかし、玄葉さんはひるんではいけません。力強く勇気を持って前に進まなければなりません。ある若手県議が「よど号ハイジャック事件のときに、山村新治郎・運輸政務次官(“男・山新”、“身代わり新治郎”)が人質になったのとか、ああいう巡り合わせって憧れるよね」と語りました。政治少年は自分が国難を救うことに憧れます。当選回数の階段を昇るうちに、少しずつ“大人”になり、あたかも国難を望むかのような発言はしなくなり、思惑含みの発言が増えていきます。しかし、玄葉さんの正念場は今しかありません。たとえば、渡部恒三衆院議員は79歳ですから、玄葉さんより32歳上です。玄葉さんの選挙の強さなら、それなりに無難にやっていけば、そのくらいまで行けるでしょう。恒三さんも、厚生大臣時代には、トルコの閣僚経験者から「コーゾーは日本で落選しても、トルコに来ればいつでも議席がある」と言われ、通産大臣時代は、磐梯高原の四極通商協議で、「歓迎!カーラ・ヒルズアメリカ通商代表」という横断幕をみた、米通商代表のカーラ・ヒルズ女史が「コーゾー、 私はあなたがうらやましい。あなたのように素晴らし故郷を持つ人は幸せだ」として、わが国では“タフネゴシエーター”、“鉄の女”のイメージが強かったヒルズ女史が、「涙を流した」(恒三さん)とされています。しかし、玄葉さんはそれをはるかにしのぐ歴史の転換期に外相でいます。それは、幸福なことです。

 「五十而知天命」

(五十にして天命を知る、「論語」巻第1為政第2の4)

 玄葉さんの取扱説明書には、もはや壊れた場合の保証書はありません。壊れるまでやってください。玄葉さんというのは良質な仲間に恵まれていますから、壊れても心配ありません。これから30年以上議員をやるにしても、この1年が正念場です。1年ぐらいはたばこもやめて、選挙区にも帰らず、応援演説もせず、地球上を走って走って走りまくれ。

 玄葉外相の可能性への挑戦が続きます。


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