地域共生社会…、言葉の上では「地域の中で人々が共に助け合いながら生きていく社会」とでも解することができるだろうか?かつて我が国に存在した“地域共生社会”の機能が今は失われてしまっているという。はたして“地域共生社会”の復活は可能だろうか?
3月13日(水)午後、北海道保健福祉部が主催する「地域共生社会に向けたシンポジウム」が札幌コンベンションセンターで開催された。市町村の福祉関係職員、あるいは福祉施設の職員が対象の研修会だったようだが、一般にも門戸が開かれていたので闖入してみた。最近、この“地域共生社会”という言葉を聞く機会が多くなってきたと感じていたので、そのことについて聞いてみることはけっして無駄ではあるまいと考え参加を決めた。
シンポジウムは次のような構成からなっていた。
◇行政説明「地域共生社会の実現に向けて」
厚生労働省社会・援護局地域福祉課 梅本政隆主査
◇事例報告「包括的支援体制構築事業を通じ他の地域資源とともに人を支える」
(一社)釧路社会的地域創造協議会 櫛部武俊副代表
◇講 演「北海道胆振東部地震における支え合いの取組等について」
(学)リズム学園 井内聖学園長
◇講 演「他分野と連携した地域循環型の共生事業について」
(福)ゆうゆう 大原裕介理事長
◇パネルディスカッション
「今後の北海道における『新たな時代に対応した福祉の提供』について」
※登壇者は上記の方々に鷹栖町役場福祉課 西間章宏係長が加わった。
シンポジウムは前述したように福祉に関わる専門家の研修会である。門外漢である私がその一つ一つについてコメントできるものではない。ここでは、私がこのシンポジウムに参加させていただいて感じたことを、素人目線で率直にその感想を記してみたい。
まず“地域共生社会”の必要性が叫ばれだした背景には、我が国にかつて存在した地域における「支え合いの機能」が社会構造の変化もあって消滅同然となり、その代替えとして社会保障制度が整備されてきた。しかし、超高齢社会の出現、そして少子化、人口減少によりその社会保障制度の限界が取りざたされるようになってきた。そこで、かつての“地域共生社会”を復活させようということなのだと理解する。
ところがこの日のお話を聞いていると、福祉の対象が非常に広いというのが率直な感想だった。櫛部氏のお話は、過疎化する地域の再生の取り組みであり、井内氏のお話は地震時における地域の相互扶助の重要性についてのお話であり、大原氏のお話は障がい者の自立を促す取り組みのお話だった。三氏のお話の中に高齢者の話はどこかへ行ったのかという感じである。ことほど左様に福祉の範囲は広いということを再認識した。
だからこの日のパネルディスカッションにおいても、それぞれの立場から“福祉”を、“地域共生社会”を論ずるために、私の耳には論点がかみ合っていないようにも聞こえてきた。さらにはこの“地域共生社会“復活の音頭を取っているのがあの厚生労働省である。社会福祉行政を司っている厚労省だからそれを提唱するのは当然ではあるのだが、施策を立案する国のお役人がどれだけ地域の実態を把握・理解して施策を立案しているのか?そこが疑問である。国が立案する施策がえてして絵に描いた餅になってしまったことがいかに多かったことか…。(これは厚労省だけを指すものではないが…)厚労省の関係者にはぜひとも地域の声、現場の声を真摯に受け止めたうえで具体的な施策を提案してほしいものである。
シンポジウムが暗い見通しばかりだったわけではない。この日登壇されてリズム学園の井内学園長、(福)ゆうゆうの大原理事長の二人はまだまだ若い方(30代?)であるが、それぞれの立場からの発信力は注目に値するものだった。我々昭和世代とは違い発想が柔軟で、実践力も兼ね備えた方だと見た。彼らのような若い力が国や行政に対して積極的に提言し、民間と行政が力を合わせて“地域共生社会”の復活を実現させてほしいと願った。もちろん一住民である私たちも共にその実現のための協力を忘れてはならないが…。