齢88歳の監督・主演のクリント・イーストウッドにとっては10年ぶり監督・主演映画だそうである。しわが増え、少々丸みを帯びた背を見せながらも、渋味を増した彼の演技は存在感抜群だった。映画らしい映画を観たと思えた一作だった。
3月13日(水)午前、突如映画「運び屋」(原題:The Mule)を観ようと思った。私の映画を観ようと思う動機は単純である。今回の場合は、購読している月刊誌「文藝春秋」誌の今月号で映画評論家の芝山幹郎氏が「クリント・イーストウッド会見記」を寄稿しているのを前夜に読んで「観てみよう!」と思い立ったのである。
映画はアメリカで87歳になる老人が大量のコカインを運んでいたという実際の報道記事をもとに、長年にわたり麻薬の運び屋をしていた孤独な老人を描いたドラマである。
商売に失敗して自宅も差し押さえられて途方に暮れていたとき、車の運転さえできればいいという仕事を持ちかけられたアール(クリント・イーストウッド)は、簡単な仕事だと請け負ったが、実はその仕事はメキシコの麻薬カルテルの「運び屋」だった…。
初めはその仕事の危険さを知らなかったアールだが、次第に運んでいる物の正体を知るに及ぶが、そうなってからでは抜けることもできなくなる。組織の命令に従わないアールは、命まで狙われることになってしまう。果たしてアールの運命は???
共演は、アールを追い込んでいく麻薬捜査官にブラッドリー・クーパーのほか、ローレンス・フィッシュバーン、アンディ・ガルシアなどが出演している。イーストウッドの実娘のアリソン・イーストウッドも映画の中でアールの娘役で出演しているのも話題の一つだ。
※ 実娘のアリソン・イーストウッドとの共演場面です。
仕事に夢中になるあまり家庭も顧みず、妻や娘から見捨てられたアールだったが、妻が危篤となり自らの命の危険も顧みず妻の病床に駆けつけたことによって、妻や娘の気持ちは氷解する。このあたりの落としどころはクリントの得意とするところだろうか?
※ 麻薬捜査官役のブラッドリー・クーパーです。
麻薬の密輸組織の壊滅を図るといっても派手な銃撃戦やカーチェイスがあるわけでない。むしろ地味な展開である。だからハラハラドキドキというよりは、展開を淡々と追うことができた映画だったのに私の中にはなぜか満ち足りた思いになった。それはきっと、クリント流の しっかりと作り込まれた"映画"を観たという思いに包まれたからだろう…。