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私の札幌生活も17年目を迎えました。これまでのスタイルを維持しつつ原点回帰も試み、さらなるバージョンアップを目ざします。

シリーズ 2℃未満の道 ファイナル

2019-03-19 18:08:29 | 講演・講義・フォーラム等

 地球温暖化については一部に議論を残しつつも、今や既定の事実といってよい事象であろう。そうした地球温暖化にストップをかけようと世界的にさまざまな挑戦が試みられているが、北海道においてもこの問題を考えようというシンポジウムがあり参加した。

           

          ※ 二つの講演の後行われたパネルトークの様子です。

 3月16日(土)午後、NPO法人「北海道グリーンファンド」が主催する「シリーズ2℃未満の道 ファイナル」が札幌国際ビルで開催された。

 シリーズであり、ファイナルということはこれまで記録によると15度も開催されてきたシリーズの最終回ということだ。私も過去に1~2度参加した記憶がある。

 シンポジウムのテーマにもなっている「2℃未満」とは、2016年に発効したパリ協定では、世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保つとともに、1.5℃に抑える努力を追求することが長期目標として掲げられたことを指している。

 

 今回のシンポジウムは、次のような構成となっていた。

 〔講演1〕「2℃未満の道 科学の視点から考える」

      国立環境研究所地球環境研究センター副研究センター長 江守 正多 氏

 〔講演2〕「パリ協定が変えるビジネスの在り方」

      (公財)世界自然保護基金ジャパン会長 末吉 竹二郎 氏

 〔パネルトーク〕

    登壇者 ・江守 正多 氏 ・末吉 竹二郎 氏

        ・鈴木   亨 氏(北海道グリーンファンド理事長)

           

          ※ 国立環境研究所地球環境研究センター副研究センター長の江守正多氏です。

 江守氏によると、地球の平均気温は産業革命当時と比較するとすでに1℃程度上昇しているという。このままのペースで推移すれば2040年には1.5℃まで上昇すると予想されている。そこで平均気温が1.5℃を超えるとどのような状況になるかというと、①日本でも昨年夏に実感したような、豪雨災害や熱波による健康被害がさらに増加する。②最も深刻なのは、北極域、乾燥地域、沿岸低平地、小島嶼などに住む途上国の貧しい人たちや先住民族が多大な被害を被ったり、移住を余儀なくされたりする。③生態系の不可逆的な損失が進む。④グリーンランド氷床の不安定化リスクが増加する。などの困難な状況が生まれてくると予想されている。江守氏は1.5℃までなら平気で、2℃なら困るではなく、今既に困っており、1.5℃ならもっと、2℃ならもっともっと困る」ということだと強調された。

 そして温暖化を1.5℃に抑えるには、世界全体の人為的なCO₂の正味排出量が20150年前後にゼロにする必要があるそうだ。

 その実現の可能性については、投資の増加、政策、イノベーションの加速、行動変容、すべてのアクターの参加、国際協力等が必要とし、1.5℃未満の地球環境の実現を目指すことは、持続可能な社会への取り組みを加速する機会となるのではないか」と結んだ。

           

          ※ (公財)世界自然保護基金ジャパン会長の末吉竹二郎氏です。

 続いて登壇した末吉氏はビジネスの面から地球温暖化阻止を唱えた。

 末吉氏は2020年に発効したパリ協定はこれまでの価値観を転換させた画期的な協定だという。これまでは「低炭素化」を目指していたが、パリ協定以降は「脱炭素化」に転換したことだという。「脱炭素化」とは、いつか必ずゼロにしなければならない、初めから出さない、という発想が求められるということである。「脱炭素化」を目指すために世界経済は①循環型経済、②包摂的経済、③持続可能型経済に舵を切らねばならないという。そうした社会を目指して世界はすでに“創造的破壊”が進行していると末吉氏は指摘した。つまり、世界では政治や経済の世界において、既存の考え方を破壊し、新たな価値観に基づく創造がすでに多くの分野で始まっているとした。

 例えばエネルギーの世界では、自然エネルギーと非自然エネルギーの導入状況が2012年を境に自然エネルギーを導入する数が上回っているというデータを示された。発電量においても2018年で原発の発電量が4億Kwに対して、風力+太陽光は11億Kwを発電し、2023年には20億Kwまで発電量が伸びると予想されているそうだ。

 また、ドイツでは2018年にRE(Renewable Energy再生可能エネルギー)が石炭火力発電量を上回り(RE 42.5% 石炭 38.2%)、2030年にはそれを65%とし、2038年までに石炭火力を全廃することにしているそうだ。ちなみに日本はRE発電割合が22~24%だという。

 末吉氏はその他さまざまな例証を挙げたが、その中でも印象的だったのは世界の自動車メーカーがエンジンからモーターにシフトチェンジをし始めているというお話だった。フランス・イギリスは2040年以降国内でのエンジン車の販売を禁止するという。中国もまた新エネルギー車の割合を2019年に10%、2020年には12%にすることとし、海南省では省独自に2030年にエンジン車の販売を禁止することを決めているという。そうした中国の動きに呼応してアメリカのEVメーカーのテスラ社が中国に年産50万台の生産工場を建設することを決定したそうだ。また、面白いことに掃除機メーカーのDysonが2021年にシンガポールにおいてEV車の生産を開始することが決定しているという。

 こうした動きに金融界も反応しているという。末吉氏は「破壊されるのは、CO₂排出を許容する金融」「創造されるのは、CO₂排出を拒絶する金融」と称した。世界的メガバンクであるHSBCは2018年、石炭火力、タールサンド、北極海での海底油田・ガス田への新規融資を排除したそうだ。またRoyal Bank of Scotlandは同じく2018年に石炭火力とオイルサンドの新規事業への融資を停止したという。

 こうした産業界、金融界の動きがまだ世界の潮流となっているとは言い難いのかもしれないが、パリ協定以降その前哨戦が始まっていると末吉氏は分析する。

 このレポの最初のリード文で、私は「一部に議論を残しつつも…」と書いた。それはアメリカのトランプ大統領に代表される地球温暖化に対する懐疑派の存在である。トランプ大統領がパリ協定からの離脱を表明したことも記憶に新しい。しかし、これもリード文でふれたように世界の大半は地球の温暖化は既定の事実ととらえている。超大国のアメリカの大統領が懐疑的であることの影響は小さくないが、日本はそれに追随することなく世界の潮流から後れを取ることのないようにしてもらいたいと思うのだが…。

 江守、末吉の両者ともに、日本においてはそれぞれの道の専門家である。そのような方々のお話を聴くことができたことは幸いだった。