小説の中の人物に惹かれることはしばしばあるが、こいつにはまったく参った、という感じである。
『チルドレン』(伊坂幸太郎著 講談社文庫)に登場する陣内という男だ。
5つの短編連作集は、それぞれに主人公というべき話者が違っているが、そこに深く関わるのが陣内であり、その言動が素晴らしく面白い。
最初の「バンク」の設定は銀行強盗の人質だが、捕まっている中でビートルズの歌を唄ってみたり、かなりな口調で逆らってみたり、いくら小説でもあり得ないだろうと思うほどだったが、そういう陣内の語る言葉はいつも正しい(と、だんだん思ってくるから不思議だ)。
表題作の「チルドレン」で家裁調査官になっている陣内の言葉はかなり素敵だ。そして行動はそれ以上に大胆だ。
いじめの場に遭遇して、いじめられている子どもを真っ先に殴ってしまうなどという「方法」は学んで身につけられるものだろうか。
「レトリーバー」の展開は陣内の奔放さが満開だ。満足に言葉を交わしたことのない女性に告白する前に、引き気味の話者にこう宣言する。
「『絶対』と言い切れることがひとつもないなんて、生きている意味がないだろ」
そしてあえなく敗北して、次に考えたのがそんな失恋した自分のために「世界が止まった」ということ…そのあたりの件もまた絶妙だ。
大胆に言い切った翌日には正反対の言葉を吐いてみたり、話者となる周囲の知り合いたちがそれに翻弄される物語とも言えるのだが、それはまさしく「奇跡」という言葉で括られるんだなあと思った。
陣内はけして自分が世界の中心だなんて思ってはいないだろう。
しかし、その生き方は無敵だ。
『チルドレン』(伊坂幸太郎著 講談社文庫)に登場する陣内という男だ。
5つの短編連作集は、それぞれに主人公というべき話者が違っているが、そこに深く関わるのが陣内であり、その言動が素晴らしく面白い。
最初の「バンク」の設定は銀行強盗の人質だが、捕まっている中でビートルズの歌を唄ってみたり、かなりな口調で逆らってみたり、いくら小説でもあり得ないだろうと思うほどだったが、そういう陣内の語る言葉はいつも正しい(と、だんだん思ってくるから不思議だ)。
表題作の「チルドレン」で家裁調査官になっている陣内の言葉はかなり素敵だ。そして行動はそれ以上に大胆だ。
いじめの場に遭遇して、いじめられている子どもを真っ先に殴ってしまうなどという「方法」は学んで身につけられるものだろうか。
「レトリーバー」の展開は陣内の奔放さが満開だ。満足に言葉を交わしたことのない女性に告白する前に、引き気味の話者にこう宣言する。
「『絶対』と言い切れることがひとつもないなんて、生きている意味がないだろ」
そしてあえなく敗北して、次に考えたのがそんな失恋した自分のために「世界が止まった」ということ…そのあたりの件もまた絶妙だ。
大胆に言い切った翌日には正反対の言葉を吐いてみたり、話者となる周囲の知り合いたちがそれに翻弄される物語とも言えるのだが、それはまさしく「奇跡」という言葉で括られるんだなあと思った。
陣内はけして自分が世界の中心だなんて思ってはいないだろう。
しかし、その生き方は無敵だ。