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ハンコの跡が教えてくれる

2010年10月10日 | 読書
 『大人の表現術』(中島孝志 主婦の友社)
 
 ビジネス書の一つであるからもっともだとも言えるが、それにしても「表現術」と命名してある本の冒頭に引用されていた言葉は意外だったし、得心もした。

 「ハンコには心が現れる」
 
 自分には、契約という意味でのハンコを押す仕事はほとんどない。しかし決裁ということであれば、結構あるほうかもしれない。
 けして多い数とは言えないが、慣れていない分だけ少しでも数が多くなると雑になってしまう、そういうだらしなさが自分には確かにある。
 他人が押印したものに対して口に出さないまでも結構批評めいた目で見ていることもある。
 そういう些細なことに気づかされた表現だ。
 つまり、どういう意味のハンコかを考えているのか、と。

 著者が言いたいことの大半がそこに表れている気がした。
 それは、「術」を支えているのは一回一回の丁寧さであること、心遣いを反映させることが術なのだ、ということ。

 術とは効果を上げるために用いるわけで、もちろんたくさん身につけた方がいいに決まっている。しかし、「術に溺れる」という表現があるように、単なる目先の損得や効率だけでは、結局響くものにはならない。

 ハンコと同列に「あて名書き」などについても触れられている。様々な機器に頼るのはもはや仕方ない時代である。だからこそ、何で「伝える」かという焦点化をはっきりし、具体化することは怠ることはできない。

 大勢に伝える表現術は一人に伝える表現術とは違うだろう。
 しかし、結局は一人ひとりだとハンコの跡が教えてくれる。