すぷりんぐぶろぐ

桜と絵本と豆乳と

貫く人を心に棲ませよ

2014年02月04日 | 読書
 「2014読了」13冊目 ★★★★

 『果断 隠蔽捜査2』(今野 敏  新潮文庫)


 現実はこんなに甘くはないだろうと思いつつ,そうありたいとかあってほしい願いにしばしの間浸らせてくれるのが,いいフィクションの条件だ。

 その意味で,公務員必見,管理職にある者必読! と誉めたい気がするエンタメ小説である。

 もっとも好みもあるだろうし,「結局,エリートキャリアの自己満足か」と一笑に付する人もいるだろう。

 竜崎伸也というキャリア警察官の一人称視点で描かれる「隠蔽捜査」シリーズ2作目。
 警察庁中軸で活躍した前回の展開も読みごたえがあったが,家族の不祥事で降格し,警視庁大森署の署長となった今回の方がより面白みがあった。

 警察機構という究極の縦社会の中に限らず,派閥や情実,慣例などに囚われないで,法に則り原則を貫くことがいかに困難であるかは,何かの職についた経験者であれば十分に理解できる。
 理解できるというレベルではなく,絡みついた様々な糸によって麻痺しているのかもしれない。

 それゆえ,組織からは「変人」視され,家族からは「唐変木」呼ばわりされる竜崎の一言一言は,けして麻痺していない人間の思考はこういうものだったと,改めて感じさせてくれる。

 引用したい格好のいい言葉は数々あるが,一つだけというなら解説子も挙げた,前作で語るこれか。

 俺は,いつも揺れ動いているよ。ただ,迷ったときに,原則を大切にしようと努力しているだけだ


 原則とは,「何のために」を常に問うことである。それに従って優先事項を配置することである。

 署長という立場で部下をどう動かし,常に上から降りかかる「体面」という圧力をどう撥ねかえすか,その論理と言語はまさしく武士の「刀」のようだ。
 本物の武士道など語るすべもないが,現代的な感覚で立ち上げてみせたキャラクターといってもよくないか。

 ちなみに,地域安全や学校教育について懇談会の場で「脇差し」で斬ってみせた場面も,職業柄興味深い。


 ここしばらく,まともなことを語ろうとするとき(笑),「我が内なる斎藤さん」と心で言っていたが(また笑),これからは「我が内なる竜崎伸也」としようかな,とかなりどうでもいいことを考えている。