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桜と絵本と豆乳と

幸せそうに見える人が語る

2015年12月02日 | 読書
 【2015読了】120冊目 ★★★
 『毎日トクしている人の秘密』(名越康文  PHP研究所)

 題名だけみると、よくある自己啓発書のように感じる。しかし部分的にはそうにせよ、やはり名越先生はちょっと一味違うなと思わせられた。大きなテーマは「幸せ」。唐突に、この問いに関して精神科医の方々はいったいどんなアプローチをしているのか興味が湧いた。幸せでない精神科医もおそらくはいるだろうに。


 テレビ画面でしかお目にかかれないが、名越先生は幸せそうに見える一人だ。それはどんな状態を指すかということを「ひとつの定義」として挙げている。「その人の社会的なミッションを果たしていくことが、それほど億劫ではない状態である」…ごく単純には仕事に打ち込んでいることだろうか。そりゃそうだ。


 武術家甲野善紀氏のエピソードが数多く登場する。そこからの学びを上手に提示している。こうした達人との出会いをどんなふうに消化し、昇華していくか、そこがきっと分かれ道だ。盲目的にとは言わないが、巨大な太鼓を前に様々な叩き方をして、その音色を楽しむような趣きがある。出会いを学びつくしている。


 おっと思う箴言、警句が多い。例えば「苦しみとは現実ではなく、感覚なのだ」例えば「自由と幸福とは決して相容れない」例えば「後ろめたさがなければ思想ではない」…いずれも説明を伴わないと納得できない句だ。筋道を踏まえて自分の言葉で理由づけできれば、しっかりこれらの言葉を身に付けたことになるか。


 上に挙げた箴言、警句を読めば想像できるが、この本は「ことば」の吟味が迫られる。「不安」とは、「場」とは、「思想」とは…そして「死」とは「生」とは、という宗教論に近いところまで掘り下げている。辞書的な常識とはかけ離れた解釈もあり、心理学における多面的な理解の仕方についてヒントになる気がした。