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フィクションの力を知る

2016年10月07日 | 読書
『人生を変えた時代小説傑作選』(山本一力、他  文春文庫)


 時代小説好きである作家山本一力、俳優児玉清、文芸評論家縄田一男の三氏が、それぞれ2編ずつ選んだアンソロジー。菊池寛に始まり池宮彰一郎までの全6編だった。時代小説は馴染みがなく、今までも数えられるほどしか読んでいない。短編の名作なら読めるかなと手に取ってみた。少し面白さがわかった気がする。



 敬遠していた理由は、言葉遣いや背景を理解する困難さ…まあ結局面倒くさがりなのかなあ。今回の小説にも難解な言葉があり、結構飛ばして読んだのが正直なところ。しかし、また現代を描いたものとは違う迫力、重みがあり、さすが手練れの読み手が推す作品だと思った。ただテーマに時代の違いは感じなかった。


 最初の菊池寛「入れ札」は、有名な国定忠治と子分たちとの別れの場面を描いているが、人間の心のみっともなさをつくづく感じさせてくれた。また山田風太郎の「笊ノ目~~」は幕末に奮闘する同心を描き、人生観、死生観が実に色濃く表れる展開に舌を巻いた。現代の出来事では設定できない持ち味を孕んでいる。


 読書家としてつとに著名だった児玉清が、巻末の鼎談でこんなことを述べている。

◆フィクションというものを知らないとほんとの現実は分からない。


 含蓄のある言葉だ。フィクションは作り物に違いないけれど、物事には裏があり、そのことが強い意味を持つと、現実以上に知らしめる、ということだろう。時代小説には、現代とはかけ離れた壁や枠が非常に多いけれど、だからこそ、想像し考えることは、知恵を養い、ある意味創造する力に結びつくかもしれない。