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眠れぬ夜にウチダ節

2016年10月20日 | 読書
『疲れすぎて眠れぬ夜のために』(内田樹  角川文庫)


 読んでいないような気がして、中古書店で求めた文庫だったが、しっかり書棚に並んでいた。

 ちょっと面白い感想も書いていた。→こちら

 しかし9年前の発刊、もう一度と思い読み直してみた。
 考えると、仕事を辞めてから内田本は読むのは初めてになる。

 結局、いつものごとくうんうん頷きながら読み進めた。
 確かに難しい部分もあるけれど、やはり肌に合っている。

 そんな自分の感覚を見事に言い当てている文章がある。

◆ある著者の「愛読者」というのは、その人の「新しい話」を読みたくて本を買うわけじゃない。むしろ「同じ話」を読みたくて買うんだと思います。

 文学の世界だけでなく、音楽界の例を引きながら論を進めている。
 なるほど、好きな小説も、好きな音楽もその通りなのかもしれない。

 ああこういうフレーズが好きだなあ、胸にガツンとくる、許されるならオオオウッと拳を上げたくなる(そこまではしないか)…
 
 では、この文庫ではどんな「同じ話」かというと…

◆「むかついて」人を殺す若者や、一時的な享楽のために売春やドラッグに走る若者は「利己的」なのではありません。「己」が縮んでいるのです。「自己中心的」なのではありません。「自己」がほとんどなくなっているのです。

◆現代人は「群れと行動をともにする」ことの生存戦略上の有利さと安全性をを過大評価する傾向にある。

◆欲望の充足を生態系の安定より優先的に配慮する生物、それが人間である。



 大きく括っていえば、この著では、生き方の多様化と言われつつ、どこまでも単線化に突き進んでいることへの鋭い指摘がある。

 身についている「型」を注意深く掘り起こして、自分の身を守っていくことについて考えている。