すぷりんぐぶろぐ

桜と絵本と豆乳と

好きになる能力の結晶

2017年11月02日 | 読書
 一時期「教育はサービスか」といった問いが雑誌等に載ることがあり、例のごとく語義を確かめたことがあったように思う。まあ予想されるように広義、狭義のとらえ方があり、要は教育従事者としての姿勢如何ということになる。ただ、英訳としての「もてなし」「値引き」には該当させない心構えは必要だなと思った。



2017読了109
 『サービスの達人たち』(野地秩嘉  新潮文庫)


 ロングセラーといえるノンフィクション。一部は雑誌等で読んでいるかもしれない。NHK『プロフェッショナル仕事の流儀』が始まったのが2006年なので、この著書はヒントになっているのではないだろうか。「モノづくり」とは違うけれど、徹底的に「サービス」の現場を突き詰めてみれば、そこでも何かが作られる。


 ウィスキーのブレンダーを取り上げた文章がある。「中学を出て工場に勤めた男が仕事を通して磨かれた姿がそこにはある。仕事というのは長い間、一生懸命にやっていれば人格を磨くものだということの典型が彼だった。」この一節から考えると、サービスは相手に向ける行為であると同時に、自身への染み込みが強い。


 さてこれらの話の一つの側面、それは本を書くよう奨めたある編集者の言葉にある。「サービス業のプロを描くということは都市を描く、都市に住む人たちのセンスを表現すること」…例えば、ゲイバーのホステス、興行師、靴磨き…都市空間によって成立し磨かれた文化、それは地方人には届かない、眩い光でもある。


 酒井順子による解説が読み応えがある。「日本人が本当に好きなのは、技術によるサービスではなく、『そうせずにはいられない』から行われるサービス」という言葉は、登場したプロたちから導き出された。そして著者自身との共通点を探る中で、納得の結論に達する。「『好きになる能力』を持っていることなのです。