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歌は人の志を運ぶ

2017年11月04日 | 読書
 「正義の味方と言えば」と問われて誰を挙げるか。当然年齢層で大きく分かれると思う。しかし60代以上であれば確実に上位と思われるのが「月光仮面」だ。この格好の良さは、昭和30年代に幼少期を過ごしている者にとっては格別ではないか。その勇姿の写真とはミスマッチするような題がつけられた一冊を見つけた。

2017読了110
 『おふくろさんよ 語り継ぎたい日本人のこころ』(川内康範  マガジンハウス)




 筆者の川内康範について知っているならば、なぜこの題がつけられたかは簡単に想像がつく。この本の出版は10年前、ちょうどあの歌手森進一との「おふくろさん騒動」があった年である。前書きで触れている。それがあってのこの書名であるが、また著者の原点も「おふくろの愛」にあることは十分に伝わってきた。


 初めて知ったが川内は佐藤栄作政権以降の代々首相の顧問であった。つまりブレーンであり、フィクサーでもあったらしい。それを知って『月光仮面は誰でしょう』の詞を読みかえすと感慨深い。「不戦の意志の表明」を強く訴え、当時の政治家たちの「腑抜け」ぶりをこき下ろしている。存命ならば、何を語ったか。


 月光仮面にはテーマがあり、それはキャッチコピー「憎むな、殺すな、赦しましょう」となった。ポイントは「赦す」。普通「ゆるす」と言えば「許す」だろう。しかし許可するといったいわば上から目線を嫌い「赦」を用いたことを、今の世に照らし合わせ考えると「自己責任」という語の、あまりの狭小さを痛感する。


 良くも悪くも昭和的ロマンに生きた人物だ。それはやはり政治の「助っ人」としてより、文化、芸能での活躍が大きい。「まんが日本昔話」監修なども大きな仕事と言える。しかしやはり、歌謡曲における光がまぶしい。「歌は人の志を運ぶ船である」と結んだことを思うと、「おふくろさん」の詞はつくづく素晴らしい。