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桜と絵本と豆乳と

60冊読んで一歩も…

2018年04月04日 | 雑記帳
 飽きずに、しかもいっこうに捗らない書棚整理を続けている。これ以上減らすには少し思いきりが必要だなと、愛着が残っている文庫本も手放すことを決意。伊坂幸太郎、そして伊集院静を一掃するか、と出してみたら伊集院のモノだけでほぼ60冊あった。そうだよなあ、文庫版になったら即買いが多かったからなあ。



 昔「ダスティ・ホフマンになれなかったよ」(by大塚博堂)という曲があった。映画俳優とは違うが、憧れという気分を持ち続けたことでは、さしずめ「伊集院静になれなかったよ」とは言えるかな。60冊も読んでみても一歩も近づかない。少なくない人が頷くと思うが、伊集院は、男が憧れる男の条件を満たしている。


 無頼というキーワードを持ちながら、酒、博奕、美術、女性?遍歴など多彩な要素に満ち溢れているからだろうか。改めて読んできた作品を眺めてみると、ある意味では不器用なイメージが残る。題材の範囲が広いわけではなく、出自や幼少期、青年期、交友、恋愛経験などから物語の筋を拵えた作品が圧倒的に多い。


 読んでいて圧倒されたのは、いわゆる「海峡三部作」の『海峡』『春雷』『岬へ』、それから『お父やんとオジさん』だった。自らの体験や家系に関わる出来事がベースにあった。『羊の目』という侠客を主人公にした長編も印象的な作品だ。闇社会の中を生きる男の生き様…難しいジャンルだが、リアリティを感じさせた。


 初期作品では『乳房』がやはり忘れられない。夏目雅子のイメージも重なる。『機関車先生』も良かった。映画では口のきけない教師役を坂口賢二が演じていた。ふと「風情」という言葉が浮かぶ。平坦でない独特の匂いたつ人物を登場させるのが、この作家の個性だな。と、今頃になって、風情の乏しい一読者は得心する。