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「ヨクミル、ヨクキク、ヨクスル」道標

2018年04月25日 | 読書
 「よい教育をするとはいったいどういうことでしょう。ただただよい生活をさせることです。

2018読了46
 『おさなごを発見せよ~羽仁もと子選集』(羽仁もと子 婦人之友社)


 明治期、大正期、昭和期に書かれた文章を「新装版」という形で発刊した。初版から半世紀を超え、新刷からも二十数年経つ。しかし幼児期、学童期の子育てのための提言は古臭さを感じない。著者らが設立した「自由学園」の標語は「ヨクミル、ヨクキク、ヨクスル」だった。その実現のための道標と言えるだろう。


 「おさなご」とは「幼子・幼児」。では「おさなごを発見する」とはどういうことか。赤ん坊や幼児に宿る「生きる力」を「たしかに知る」と意味づけている。知識は方向と手段を示し、それをもとに進めるが、もっと子の内部に関心を持ち要求や状態を探り、その応じ方を考える。教育者、養育者のあるべき姿を指す。


 「子供を取り扱うことについて、第一に心掛くべき要件は、子供をしてつねに愉快にあり得るようにということです」とある。これを根底に据えるとき教育者は何を考えるべきかが、明らかになってくる。むろん、子どもの好き勝手にさせるということではない。禁止、制止の場合にも適用させる工夫が求められる。


 手立ての順番を重視している。あの時代に、かなり細かい具体的な育児法を発達段階に即して取り上げている。時代背景からすれば貧富の差が大きく、個々の置かれた状況の格差は相当だったはずだが、その点を踏まえながら「習慣のつけ方」「なだめ方」「自信を持っての導き方」「同情をやしなわせる」など広範囲だ。


 「たましいの教育」と題した章では、「たましい」を「良心よりももっと深いところにある」と捉えていて、幼児期の好奇心を利用して「外形をもってまずよいことを鵜呑みにさせることが必要」と記述されている。そこに肝があるようだ。「霊性」という字を当て「精神(こころ)」より深く位置づけたことも興味深い。