すぷりんぐぶろぐ

桜と絵本と豆乳と

今頃ですが、コペル君。

2018年04月19日 | 読書
2018読了43
 『漫画 君たちはどう生きるか』
 (吉野源三郎作・羽賀翔一画  マガジンハウス)




 昨夏に発刊され話題を呼んだ漫画版を、読んでみた。といっても原作も読んでいるわけではない。素直にいい出版だと思った。それにしても200万部突破とは…。売れ行きは大人から子へのプレゼントが多いようという噂?だ。頷ける。大人は「願い」を伝えたいのだろう。しかし肝心の大人は中身を読んでいるのかな。


 中学校生活における友情や格差等をテーマにしたありがちな展開とも言える。ただ、コペル君の葛藤に寄り添うおじさんの手紙と行動が、程よく「斜めの関係性」を保ち物語の筋を担う。おじさんがコペル君の言動を見つめて、豊富な例示や喩え話によって深めさせる場が心地よい。現在の社会に足りない姿でもある。


 発刊される前ではあったが、池上彰氏が原作をもとに中学生に特別授業をした報道があった。池上氏が常々言うこととこの本の主張は重なる。曰く『自分の頭で考えろ、自分で決めろ』…数々のバラエティ等で豊富な知識と分析を繰り出す氏は、いつもそこを強調している。材料、視点、手順等の提供が鮮やかなのだ。


 文藝春秋誌に池上氏と原作者の息子吉野源太郎氏の対談がある。そこで池上氏は、道徳教育の進め方について危惧を述べ、さらにこのように語っている。「『君たちはどう生きるか』にこめられたメッセージは、道徳以外の面でも文部科学省が定める教育方針へのアンチテーゼにもなっています」。耳を傾けたい見識である。


 今、推進されている英語やプログラミング教育が、本当に「自分で考える力」と結びつくのかどうか、そこが問われる。国全体の進め方と同時に、個々の学校や教室実践が見失ってはならない肝だ。それは携わる大人に対して「君たちはどう生きるか」を問いかけている姿に見える。この流行本は侮れないと気づく。