すぷりんぐぶろぐ

桜と絵本と豆乳と

「やれるなら、どうぞ」の条件

2020年10月13日 | 読書
 ずいぶんきっぱりした語り口の本だった。小気味いいという表現が合うかもしれない。例えば「よく“親子で読書を楽しみましょう”というキャッチフレーズを耳にしますが、それは”同じ本を楽しみましょう”という意味ではありません」…ぼんやり読んでいると気づけない根本のことを、明確に語ってくれる一冊だ。


『かならず成功する読みきかせの本』(赤木かん子 自由国民社)


 過日残した「爺バカモードの絵本読み」で、文科省資料として引用したポイントの最初「絵本はおとなが子どもと一緒に楽しむ本」について、浅い見方をするなと教えてくれる。つまり、親が読むならば、その「楽しむ」は本の中にあるのではなく、子どもの笑顔の中にあるという点をしっかり認識せよ、と言っている。


 大勢を相手にするボランティアなどの「コツのコツ」として、提言されていることはやや衝撃的だ。低学年用としては「“自分が読みたい本”を選ばない」がある。結論として「自分の声に向いている本」を優先すべきとする。確かに男声と女声の違い、それに声の質は表現術以上に「世界」を規定するかもしれない。



 「人の声にはふたつのタイプがあります」というコラムが興味深い。ナレータータイプとキャラクタータイプ、こうした区分は職業として子どもを相手にしてきた経験から言えば確かにあるように思うが、読み方としてはどちらも求めてきた、自分もそうありたいと思っているからだろうか。しかし、もう少し掘り下げれば「読み手としての強みを生かす」観点で、本を選んでいくべきだろうか。


 「やれるなら、どうぞ」と著者は言う。そのために自己分析と演出が必須なのだ。いずれにしろ「聞き手が楽しむ」ことを最優先するという点が貫かれている。巻末のQ&Aはかなり辛辣な部分もあるが「子どもたちを本の中へ連れていく」ために、著者の言う必要な手立てと心構えは明快だ。ブックガイドとしても秀逸。