遠方の声 中谷ミチコ(日本)この作品も先のものと同じく里山現代美術館MonET(モネ)の2階に展示されている。
ちらと観ただけでは、本棚のサイズに合わせた作品かな、くらいしか思わなかったが、瞽女(ごぜ)には気持ちが引っかかった。
じっくりと観ることもしなかったら、学芸員が「ゆっくり歩きながら観ると動くんですよ」と教えてくれた。
淡い色合いなので見過ごしてしまったが、よく観ると凹面の掘られた部分が断層構造になっており、ゆっくり移動しながら観ると像が動く。
動くように視えるのは、断層に描かれたズレが揺らいで見えるからなのだろうが、うずくまった犬の表情が通り過ぎるにつれて陰険になっていくのが恐い。
パラパラ画像にしたら分かるかも知れないけれど、この彫刻作品はやはり現場で観ないと分からない。
瞽女の動きには注目しないでしまったけれど、子供達の人真似の遊びとして描かれているのが、妙に心ざわつかせる。
子供というのは無邪気無分別無思慮無節操に人真似をして、くすくすげらげら笑うものではあるけれど、門付けの芸をして生きる盲人一行を真似るだろうか。
私は雪国のこの地で生まれ育ったので、瞽女がこのように歩いているのを何度か目撃していて、強く印象に残っている。
水上勉の小説を篠田正浩が妻の岩下志麻をヒロインにして撮った映画『はなれ瞽女おりん』も観たことがある。
この『遠方の声』という作品は、公式ガイドブックに書いてあるままに、全文を載せてみる。
【制作2021 所在MonET 2F 雪のように真っ白な本棚の合間に浮かぶ彫刻作品。人間の生活と労働と妄想のイメージがモチーフになっている。作家はかつて越後妻有の集落を訪れ、そこで聞いた昔話や思い出が、窓の外の雪原に投影されるようだと感じた。その時間が記憶となり、この作品が誕生した。】
陸の孤島と言われることもある妻有地方の暮らしを取材しても、みな淡いファンタジーとなり、このような作品として昇華されるのか。
私は高校生時、社会部に所属し、ある村落の古老達から民俗学の聞き取り調査を、夏合宿でやった経験もある。
真面目な部員ではなく、途中から誘われて入り、ふわふわと真面目な部員の後ろに付いていっただけだけれど。
瞽女の作品を観て胸のうちにざわざわとした違和感を感じたけれど、となりの糸電話の作品に救われた想いがした。