関容子著「舞台の神に愛される男たち」(講談社)をパラパラとめくると、山努氏へのインタビューをしているところに、どういうわけか(笑)、丸谷才一氏が登場するのでした。
それは関さんが「ときどき協力している毎日新聞書評欄の、各界で一流の人に『好きなもの』を三つ言ってもらうというコラムの取材」を山崎努氏へと申し込むことからはじまっておりました。
ここでは、最後の箇所をすこし長く引用して、
丸谷才一氏を偲ぶことに。
「山さんは折にふれて大先輩芥川比呂志のことを思うことがある。
『最後は入退院をくり返していて、亡くなる少し前もちょっと顔を見に寄ると、帰さないんですよね。ひとの演技や作品を面白おかしく褒めまくって、アラは探せばいくらでもあるだろうけど、そっちへは行かないで、面白いことを面白がって楽しんだほうがいい、という精神。とても教えられました。悪口を言うのは下品で貧しいことだけど、褒めることは高貴で豊かでぜいたくなことだな、と思った。それでこの間、偶然丸谷才一さんにお会いしたとき、ふと芥川さんのことを思い出した。僕の好きな先輩たちが、努めて陽気に明るくしているのがすごく好きですね』
このインタビューがキッカケで丸谷さんと山さんが親しく何度か会うことになったのは、最初に山さんが『恵比寿で』と私に場所を指定したからだった。
『突然丸谷さんに会えたときはびっくりしたなぁ。あの人の書く物には、俺がこう思ってこう書いて何が悪い!という腰のすえ方があるでしょう。あの一種乾いた感じと割り切り方は何なのかと思ってて、一度実感したかったんですよ。会ってみて、ウーンと思いました。丸谷さんの大音声は有名だけど、初めは淡々と穏やかで、あれ、と思った。そのうちに少し酔ったらやっぱり大音声になった(笑)。陽気で、スカッとしてるのね。僕はじめじめした日本人が大嫌いなんだけど、あの人はまったく日本人離れしてる。僕もああいうふうにないたいと思いましたね』
別のとき、丸谷さんも言う。
『とにかく彼は知識人。ハムレットが持って出る本がラテン語の本に見える役者は、芥川さん以降は彼しかいないかもしれない。近くでナマの肉声を聞くと本当に渋くて深みのあるいい声なのに、あれを舞台で聞かせてくれないのは実に残念だけど・・・』」(p128~129)
うん。丸谷才一氏と関容子さんの阿吽の呼吸は、
岩波現代文庫に入った関容子著「日本の鶯 堀口大學聞書き」の
「岩波現代文庫版あとがき」と、そのあとにつづく
丸谷才一氏の「解説」に詳しんだよね。
それは関さんが「ときどき協力している毎日新聞書評欄の、各界で一流の人に『好きなもの』を三つ言ってもらうというコラムの取材」を山崎努氏へと申し込むことからはじまっておりました。
ここでは、最後の箇所をすこし長く引用して、
丸谷才一氏を偲ぶことに。
「山さんは折にふれて大先輩芥川比呂志のことを思うことがある。
『最後は入退院をくり返していて、亡くなる少し前もちょっと顔を見に寄ると、帰さないんですよね。ひとの演技や作品を面白おかしく褒めまくって、アラは探せばいくらでもあるだろうけど、そっちへは行かないで、面白いことを面白がって楽しんだほうがいい、という精神。とても教えられました。悪口を言うのは下品で貧しいことだけど、褒めることは高貴で豊かでぜいたくなことだな、と思った。それでこの間、偶然丸谷才一さんにお会いしたとき、ふと芥川さんのことを思い出した。僕の好きな先輩たちが、努めて陽気に明るくしているのがすごく好きですね』
このインタビューがキッカケで丸谷さんと山さんが親しく何度か会うことになったのは、最初に山さんが『恵比寿で』と私に場所を指定したからだった。
『突然丸谷さんに会えたときはびっくりしたなぁ。あの人の書く物には、俺がこう思ってこう書いて何が悪い!という腰のすえ方があるでしょう。あの一種乾いた感じと割り切り方は何なのかと思ってて、一度実感したかったんですよ。会ってみて、ウーンと思いました。丸谷さんの大音声は有名だけど、初めは淡々と穏やかで、あれ、と思った。そのうちに少し酔ったらやっぱり大音声になった(笑)。陽気で、スカッとしてるのね。僕はじめじめした日本人が大嫌いなんだけど、あの人はまったく日本人離れしてる。僕もああいうふうにないたいと思いましたね』
別のとき、丸谷さんも言う。
『とにかく彼は知識人。ハムレットが持って出る本がラテン語の本に見える役者は、芥川さん以降は彼しかいないかもしれない。近くでナマの肉声を聞くと本当に渋くて深みのあるいい声なのに、あれを舞台で聞かせてくれないのは実に残念だけど・・・』」(p128~129)
うん。丸谷才一氏と関容子さんの阿吽の呼吸は、
岩波現代文庫に入った関容子著「日本の鶯 堀口大學聞書き」の
「岩波現代文庫版あとがき」と、そのあとにつづく
丸谷才一氏の「解説」に詳しんだよね。