渡辺京二著「夢ひらく彼方へ ファンタジーの周辺・上」
(亜紀書房・2019年)をアマゾンで古本注文送料共912円。
「本書は熊本市橙書店にて2019年1月から月に2回に
わたって行われた講義をまとめたものです。」
とあります。
第一講「読書について」で88歳のご自身を語り
はじまっておりました。
「私はある主題について書こうとすると、
文献の読破から始めます。もちろんこれは誰でも
そうする訳でしょうが、この点では私はちょっと自信があるのです。
・・・・・・
よくない頭をぎりぎり働かせる強さという点では自信があったのです。
ところが今回は頭がもうしんどい、いやだと音をあげるのです。
こんなこと初めてです。自分が心身ともに
衰弱しているのにやっと気づきました。
まあ、88歳でありますから、老衰も当然かと思いますけれど、
ひとつには石牟礼道子さんが亡くなられたということもあります。
病を抱えた彼女の老後の世話をする責任がなくなって、
楽になりそうなものなのに、逆にどっと疲れが出て来たのでしょう。
とにかくこの一年でにわかに歩行が困難になり、
耳が遠くなり、声が出にくくなりました。
老人ホームの彼女の部屋には、発声訓練をするために、
ラリルレロ、タチツテト、パピプペポと大書した紙が
張ってありました。それを思い出して、
ラリルレロとやってみるのですが、まあ言えぬことはない。
彼女はよく高い美しい声で唄を歌っておりました。
私に小言を言われたあとなど、
『叱られて𠮟られて、あの子は町へお使いに』なんて歌うんです。
亡くなる前には『園の小百合撫子垣根の千草』という
ドイツ民謡をよく歌っていらっしゃった。
私は唄は下手くそで、小学校の時も唱歌は『乙』でしたけど、
彼女の真似をして『園の小百合・・・』なんて、
夜中ひとりで歌っています。
これもまあ音程がはずれたりするけれど歌えぬことはない。
とにかくのどの具合が悪いのがひどく気持ち悪い。
・・・・・・・・・
さっき言いましたように、どうものどが弱って来ている。
人様にお話するには、それなりの大声を出さなければなりませんから、
のどのトレーニングになる。そういう次第で・・・
喋るのならまだ出来そうだと虫のいいことを考えた結果、
オレンジ(橙)で定期的に話をしてくれという
田尻久子さんのご要望にお応えすることに致しました。」
こうして
第二講「ナルニア国物語」の構造
第三講 C・S・ルイスの生涯
第四講 トールキンの生涯
第五講 中つ国の歴史と「指輪物語」
第六講 「ゲド戦記」を読む
第七講 マクドナルドとダンセイニ
の講義が始まるのですが、
私は第一講で、もう満腹。
ちなみに、好き嫌いで興味深い箇所を
引用しておくことに。
「ファンタジーは1960年代以降、世界的に流行のジャンルでして、
ひと頃はミヒャエル・エンデが評判でした。
ですが私はエンデはどうもダメなんです。
ある種の思想的主張をファンタジーの形で絵解きしているみたいで、
あれが大学の先生の間でもち上げられたのももっともですけれど、
私はそういう思想の絵解きはきらいなんです。
ひとつも楽しくありません。
自分の鬱屈を救ってくれるところもありません。
文学というのは、この世の悲しみ苦しみを負わされた者を、
束の間であれ救済してくれるものでなければなりません。」(p14)
はい。私はここまでで、もういいや。
また、思い浮かべば、続きを読むことに。
ちなみに、この本には下巻もあります。
せめて、下巻の目次を引用しておくことに。
第八講 英国の児童文学1 グレアムとボストン
第九講 英国の児童文学2 ファージョンとトラヴァース
第十講 アーサー王物語とその周辺
第十一講 エッダとサガ
第十二講 アイルランドと妖精
第十三講 ウィリアム・モリスの夢
第十四講 チェスタトンの奇譚