和田浦海岸

家からは海は見えませんが、波が荒いときなどは、打ち寄せる波の音がきこえます。夏は潮風と蝉の声。

気象庁の課長さん。

2020-11-13 | 本棚並べ
司馬遼太郎著「以下、無用のことながら」(文藝春秋)に
6ページの短文で「本の話」とあります。
はじまりは

「もう古い話で、江戸時代かなんぞのように思うが、
私が30代だった昭和31、2年のころである。
私は大阪の新聞社にいて、文化部のしごとをしていた。
・・その連載小説のお守りも、私の仕事の一つだった。
・・・一度だけ・・・たまたま自分の案が通って、
東京へ出張したことがある。なんだか晴れやかな気分だった。」

こうして、新聞の連載小説をたのみにゆくのでした。

「・・・もっとも、ことわられた。
相手は、藤原寛人(ひろと)という名の気象庁の課長さんで
・・新田次郎さん(1912~80)のことである。
私より11歳上で昭和初期学校を出、早くに富士山頂の測候にも
従事し、山岳気象の第一人者であることも、私は知っていた。

また、戦時下に満州国気象台に勤務し、敗北とともに抑留され、
その間、夫人の藤原ていさんが、凄惨な引揚げ体験をされたことも、
ていさんご自身の体験記である『流れる星は生きている』で存じ
あげていた。

新田さんご自身は、私が訪ねてゆく前年、白馬山頂に50貫もの
花崗岩の風景指示盤を運ぶ強力を主人公にした『強力伝』という
作品で、直木賞を受賞された。当時、私はこういう、筋骨と精神力
をともなう専門家が、小説を書きはじめたこと自体、明治後の
小説家の歴史における異変だと思っていた。

   ・・・・・・・・・・
余計な話はなかった。なぜ自分はひきうけられないかという理由を
必要にして十分に話された。・・・・・
体系美を感じさせるような断わり方で、私はむろんひきさがり・・・
その後、20余年、お会いする機会もないまま、亡くなられた。その間、
私は読者でありつづけたから、べつにお会いする必要もなかった。」

このあとに、新田氏の「赤ちゃん」の逸話を聞いた話を披露
しているのですが、引用すると長くなるので、カットして

「去年のことである。
枕頭で本を読んでいるうちに、飛びあがるほどおどろいた。
・・・上質の文章が吸盤のように当方の気分に付着してきて眠ること
をわすれるうちに、この本(「遥かなるケンブリッジ」)の著書の
藤原正彦氏が、あの赤ちゃんではないか、とふとおもったのである。
あわてて本の前後を繰るうちに、やはり新田次郎氏の息である
ことがわかった。巻末の略歴に、1943年のおうまれとある。

・・・・新京時代の藤原家の赤ちゃんの著作を、
70を越えた私が夜陰夢中になって読んでいたことになる。
この偶会のよろこびは、世にながくいることの余禄の一つである。
同時に、本のありがたさの一つでもある。・・・・」

(「本の話」1995年7月号)
ちなみに、題名には副題もあって
「本の話・・・新田次郎氏のことども」とあり、
この文の真ん中辺にも
「さて、この雑誌は、図書についてのサーヴィス雑誌だと
聞いている。私は、本ほどありがたく結構なものはない、
ということを大いに書こうとしていて、つい新田さんの
ことを思いだし、話がこんなふうになってしまった。」とあり、

本文の最後の一行はというと
「数奇というのは、読書以外にありうるかどうか。」
と締めくくられておりました。

はい。寒くなりましたが、いつのまにか読書の秋。

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200円読書。

2020-11-13 | 本棚並べ
古本で「藤原正彦の人生案内」(中央公論新社・2006年)の
単行本が200円なので、ついでのように買う。

3ページの「まえがき」を読む。これだけで私は満足。
ということは、3頁ほどの200円読書。
うん。たのしかったので引用することに。
はじまりは

「ひとの人生相談にのる、というのは私ごとき一介の数学者の
得意とする所ではない。数学を志す者の多くは、もともと人間より
数の方が好きという傾向が強い・・・・・・

そんな私に読売新聞が『人生案内』の担当を依頼してきた時に
びっくりした。そしてなぜか笑った。
依頼のあったことを女房に告げると、女房は『えっ』と言い
しばらく絶句してから・・・なぜか笑った。・・・・・

それを引き受けることになったのは女房の

『あなたは非常識、というか無常識だから、
これを機会に他人様の悩み事に耳を傾けて、
少しは世間常識というものを勉強してもいいかも知れないわね』

という言葉だった。・・・・・・

始まってみると、意外なことに私の回答は評判がよかった。
ほとんどの相談者が、常識とか固定観念とか風潮にしばられて
悩んでいて、それを指摘するのに私の常識が役立ったのかも知れない。

例えば、若い人の相談に、性格が暗いため友達がいないという
ような悩みが多数あった。『明るく快活で友達の多い子がよい子』
という常識のせいである。・・・・
世界にはいろいろの花があるから楽しいので、チューリップ一色では
つまらないと私は言ってやる。この世が明るく快活な子ばかりでは
気味悪いし疲れてしまう、と思うからだ。

また『自立した女』が理想ともてはやされる現代の風潮だから、
専業主婦やその予備軍は肩身の狭い思いをしたり悩んだりしてしまう。
私は、子育てというのは最大の社会貢献と断じたりする。
 ・・・・・・・・

私を悩ましたのは・・・・女房が
『どうしようもない夫について藤原正彦先生に御相談したいわ、
人生案内に手紙を出そうかしら』と事あるごとに言っていたことである。
・・・」

うん。私の200円読書はここまで(笑)。
ちなみに、新刊定価は1200円+税。
新刊なら、買わないけれど、古本なら手がでる。

はい。これで満腹感。
ボーッとしていたら、
そういえば、司馬遼太郎著「以下、無用のことながら」に
その当人の藤原正彦氏が登場するエッセイがありました。
うん。長くなるので、そちらは、ブログをあらためることに。


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