和田浦海岸

家からは海は見えませんが、波が荒いときなどは、打ち寄せる波の音がきこえます。夏は潮風と蝉の声。

「そんなこというたって」

2020-11-21 | 本棚並べ
「時代の風音」(UPU・1992年)は、鼎談です。
その3人の顔ぶれは

堀田善衛 (1918年・富山生まれ)
司馬遼太郎(1923年・大阪生まれ)
宮崎駿  (1941年・東京生まれ)

うん。パラパラめくって、
勝手な引用をすることに。

司馬】・・・私より堀田さんは5つ上ですから、
『資本論』というものを少しは親身になって読まなきゃいけない、
そういう青春期があったと思うのです(笑)。

私はそれがまったくなくて、戦後を迎えたでしょう。そしたら
わりあい流行りました。京都大学担当の新聞記者だったものですから、
いろんな先生たちや学生たちが真っ赤っかになっていくのを見てました。
とんでもない人まで真っ赤っかになろうとしてました。

それで彼らのだれといくら議論しても、
勝ったことないんですな。議論では負けました(笑)。
コミュニストと議論して勝てる人はだれもいないです。

ところが、『そんなこといったって』という
大阪弁で、『そんなこというたって』というところから
本音がはじまるのですけども、彼らコミュニストの
議論はそういう具合になっていません。

   ・・・・・
だから、ただの人間とか、ただの社会とか、ただの日本とは
何かということを自分で考えざるをえなかったですな。考えざるを
えないだけでなくて、自分でじかに日本史に当らざるをえなかった。

だから私個人でいえば、それは私の勝手につくった娯楽だった(笑)。

宮崎】 楽しみ?

司馬】 楽しみというより、テメエ勝手にちょっとした
自分の使命だと思ってたのかもしれません。
その似たような人が同時代に私より年上で、
たとえば桑原武夫さんのような人がいました。・・・・・
   ・・・・・・・・

左翼にならない人間というのは、
つまり真心がないんだとさえ思われていました。・・・
昭和初年、多くの知識青年が左翼になったということを、
後世の人たちはちょっと誤解すると私は思いますし、
その理由がよくわからないでしょう。現場の感覚というのは
わかりませんでしょう。同世代でないと。

堀田】 そりゃわからないですよ。
 ・・・・・

司馬】・・たとえば幕末に尊王攘夷、尊王攘夷、と言いつのった。
それでは、世界じゅうと戦争するのかということになる。
できもしないことを槍と刀をふりかざして言いつのった。
いざ幕府が倒れ、明治政府になるや、まっさきに開国する。

昔は井上聞多という名で走りまわってたのちの井上馨に、
むかし同志だった人が面会にきて、
『尊王攘夷、あれはどうなりましたか』とたずねると
『あのときは、ああじゃなきゃ、いけなかったんだ』と答えた(笑)。
つまりシュプレヒコールがそのまま真理として通用する時代があって、
一夜明けて世の中が変われば、それはトイレの古新聞のように
古ぼけてしまう。

堀田】 それは、現場の空気というものは
やはりひじょうにつかみにくいものです。・・・
(p41~43)

うん。この「ひじょうにつかみにく」現場の空気というのが、
堀田善衛著「めぐりあいし人びと」(集英社・1993年)に
拾える気がします。場所は、終戦まぢかの上海でのこと。


「武田君は戦前、左翼活動で警察に捕まったことがありましたから、
武田君のところに領事館の特高(特別高等警察)がしょっちゅう来て
いたんですが、五月を過ぎたころでしょうか、特高が来て、
この戦争はどうなるのかとわれわれに訊ねるんですよ。
なんとも頼りないことですが・・・そしたら、
『おまえはどっちにつくんだ』と問われて、これには困りました。
 ・・・
そういうなかで、私はわりと平然としていたんですよ。
というのは、上海の上流階級の中国人(と当時は思っていたけれど、
今から考えると地下の共産党員だったんですね)と親しくしていた
ものですから、この戦争が終われば共産党が政権を握るだろうと
いうことが、はっきりしていたんです。
彼らからは、そういう情報を得るとともに、
逆に相談をもちかけられたりもした。たとえば、

『堀田さん、あなたは日本人だから、朝鮮のことはよくご存じでしょう。
朝鮮の方は、二人集まると三つの政党ができるといわれるように、
独特の個人主義があるけれども、それにどう対応したらよいでしょうか』
と、妙な政治的相談をする。

こちらは、そんなことは皆目わからないと答えたけれども、
その当時、延安あたりの共産党には、朝鮮の人たちがずいぶん
いたらしいから、そういうことで訊いたのだろうと思いますね。

まあ、あの人たちから見れば、私などまだ28歳の海のものとも
山のものともつかぬ若造ですけれども、そういう話を対等に
してくれたわけで・・・・(p33~p35)


うん。これを引用しながら、日本の学術会議のこととか、
米国の不正選挙に対する、トランプ陣営のことを思い浮べておりました。

コメント
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