この前、向井敏著「本のなかの本」(毎日新聞社・1986年)を
本棚からとりだしたので、今の自分に興味を引く本はないかと、
紹介されている150冊の本の目次をみるのでした。
たとえば、
山崎正和著「室町記」は「『豊かな乱世』の発見」と目次にある。
うん。ほかにはないかと目次をみてゆくと、ありました。
神田秀夫著「今昔物語」に、「よみがえる古典の感触」とある。
さっそくその箇所をひらいて2頁の紹介文を読む。
注には、神田秀夫氏の「今昔物語」は
「初刊昭和32年、弘文堂。のち改訂して岩崎書店版
『日本古典物語全集』第八巻に収める」。
うん。この全集は
「ジュニア向けに編んだ古典の再話集」らしい。
向井敏氏のこの「今昔物語」紹介文の最後を引用。
「構成についていえば、原典に収める1028の説話から27話を選び、
律令体制が変質しつつあった平安後期の揺れ動く時代相を一望できる
形に順序や配置を整える。再話の仕方にしても、単なる現代語訳や
手っとり早い縮約というのではなく、『今昔物語集』のほか、
『宇治拾遺物語』『梅沢本古本説話集』『日本霊異記』など一連の
説話集の類話をすべて点検のうえ、一つの説話のなかに巧みに
溶かしこんだり、半端なエピソードを発端と結末をそなえた物語に
組み直したりして、当時の世相や人びとの考え方をより豊かに
感じとれるように工夫をこらすのである。」(p172~173)
はい。読んでみたくなりました(笑)。
ネットで検索すると、全集のなかの単体では見つからず
岩崎書店の『日本古典物語全集』全30巻のうち
30巻目が欠の、29巻揃いで送料入れて5800円が見つかる。
このなかに神田秀夫著「今昔物語」は、はいっている。
一冊5800円ならば、これはもう、あきらめるのですが、
一冊200円×29巻=5800円なら、一冊200円の古典が29冊。
私はどうしたのか。
はい、注文することに。
こういう場合。
向井敏著「本のなかの本」の言葉の魅力に、
抗いがたかったということで、決着します。
「ジュニア向けに編んだ古典の再話」という指摘が、
私みたいな古典の通読が苦手な者には何より有難い。
なので、早晩ブログでご紹介できるかと思います。
ちなみに、向井敏著「本のなかの本」のなかには、
「書評紙上まれに見るすばらしい言葉を捧げた」
という中野重治の言葉が引用してあります。
その箇所を、最後に孫引きしておくことに。
「ああ、学問と経験とのある人が、
材料を豊富にあつめ、手間をかけて、
実用ということで心から親切に書いてくれた
通俗の本というものは何といいものだろう。」(p143)